研究課題/領域番号 |
24540382
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
小泉 昭久 兵庫県立大学, 物質理学研究科, 准教授 (00244682)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 重い電子系化合物 / ウラン化合物 / 隠れた秩序転移 / 放射光実験 / コンプトン散乱 / 電子運動量密度 / 電子占有数密度 |
研究概要 |
5f電子系の重い電子化合物であるURu2Si2を対象に、運動量密度分布と電子占有数密度の観点から、「5f電子の遍歴・局在性」や、25年来の謎である「隠れた秩序」に関わる電子状態の解明を目指して、放射光X線を用いたコンプトン散乱二次元再構成実験を行った。 測定にはSPring-8のBL08Wに設置されているコンプトンスペクトロメータを用いた。単結晶試料の(001)面において5方位のコンプトン・プロファイルを測定し、二次元再構成解析により運動量密度分布を求め、更に、LCW解析を行うことにより、観測面に射影されたブリルアンゾーンにおける電子占有数密度を求めた。 一方、実験結果と比較するため、f電子を遍歴させたモデルと局在させたモデルのバンド計算を行い、その結果から実験結果に対応する電子占有数密度を求めた。 実験とバンド計算による電子占有数密度を比べると、5f電子の遍歴・局在性が変化すると考えられる温度(~60K)より高温では5f電子の局在性が確認された。低温側では5f電子の遍歴性が予測されるが、実験結果は一部の5f電子が未だ局在していることを示している。更に低温の隠れた秩序転移温度に近づくにつれ、電子状態はより遍歴的に変化し、転移温度以下の隠れた秩序状態において、5f電子が最も遍歴的になるものと考えられる。この結果は、隠れた秩序転移に伴いバンド構造が大きく変化していることを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、コンプトン散乱の2次元再構成実験・解析をURu2Si2に適用して、隠れた秩序転移温度の高温側における5f電子の局在・遍歴性の変化、隠れた秩序転移に伴う電子状態の変化や、隠れた秩序相と競合 あるいは 共存していると考えられる反強磁性相の電子状態を観測し、実験結果とバンド計算とを比較することにより、運動量密度分布・電子占有数密度の観点から、URu2Si2における電子構造の全容と5f電子の寄与を解明することである。このうち、当該年度の研究計画は、単結晶試料の(001)面においてコンプトン散乱2次元再構成測定・解析を行い、5f電子状態の温度依存性を調べることであった。 SPring-8の2012A期、2012B期において放射光実験を実施し、温度:20K、30K、100K、室温での電子占有数密度を求めることができた。また、f電子を遍歴させたモデルと局在させたモデルのバンド計算も実行し、その結果から実験結果に対応する電子占有数密度を求めた。実験と理論の比較から、局在・遍歴性や隠れた秩序転移に伴う電子状態の変化に対して、5f電子が深く関与していることを示唆する結果が得られており、当初の目標は計画通り達成されている。
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今後の研究の推進方策 |
当該年度において、URu2Si2単結晶の(001)面で行ったコンプトン散乱2次元再構成測定・解析より二次元の電子運動量密度および電子占有数密度を求め、5f電子の局在・遍歴性の変化や隠れた秩序転移に伴う電子状態の変化を観測することができた。しかし、二次元の情報であるため、これと垂直方向については電子状態の詳細が分かっていない。そこで、(100)面で同様の測定・解析を行い、(001)面での実験結果と合わせて考察することにより、3次元の運動量空間やブリルアン・ゾーンにおいて、電子状態の変化が、どのバンドで起こっているのか、運動量空間やブリルアン・ゾーンのどの位置で起こっているのか を特定し、電子構造の全体像とその変化に対する5f電子の寄与を明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額(B-A)について:放射光実験を行っているSPring-8において以前に作製された密封用サンプルホルダーの価格をもとに当該年度の支出を計算していたが、新規に参入した業者にサンプルホルダーの作製を依頼したところ、予定していた価格より安価であったため差額が生じた。翌年度分の研究費および上記の差額分は、2013A期、2013B期における放射光実験の費用、国内外での学会発表、これまでの成果についての論文投稿、また、必要に応じてサンプルホルダーの作製に使用する。
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