研究課題/領域番号 |
24540382
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
小泉 昭久 兵庫県立大学, 物質理学研究科, 准教授 (00244682)
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キーワード | 重い電子系化合物 / ウラン化合物 / 隠れた秩序転移 / 遍歴・局在性 / 放射光実験 / コンプトン散乱 / 電子運動量密度 / 電子占有数密度 |
研究概要 |
ウラン化合物の電子状態について、放射光X線を用いたコンプトン散乱二次元再構成実験により調べている。ウランの5 f 電子が示す遍歴・局在性の変化や、特に、URu2Si2化合物において25年来の謎である「隠れた秩序」に関わる電子状態の変化を、運動量密度分布と電子占有数密度の観点から明らかにすることを目的としている。 測定にはSPring-8のBL08Wに設置されているコンプトンスペクトロメータを用いた。当該年度では、URu2Si2単結晶試料の(100)面において9方位のコンプトン・プロファイルを、隠れた秩序相(14K)において測定し、二次元再構成解析により運動量密度分布を求めた。昨年度に測定を行った(001)面に射影された運動量密度分布と比較することにより、隠れた秩序相における電子状態が、より詳細に理解される。一方、実験結果と比較するため、f電子を遍歴させたモデルと局在させたモデルのバンド計算を行い、その結果から実験結果に対応する(100)面の運動量密度分布を求めている。 実験と理論の結果を合わせて考えると、5f電子は、隠れた秩序相において遍歴的であり、フェルミ面の構成に寄与している。転移温度以上では、5f電子は部分的に局在しており、隠れた秩序転移には、伝導電子との混成が重要な役割を果たしているものと考えられる。今後、転移温度以上で(100)面の再構成実験を行えば、隠れた秩序転移における電子状態の変化が、運動量空間やブリルアン・ゾーン内のどの位置で起こっているのか特定できると期待される。 また、六方晶構造を示すUPd2Al3の単結晶試料においても同様な測定解析を行い、運動量密度分布の変化とバンド計算の結果を比較して、5 f 電子の遍歴・局在性の変化を確かめている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、コンプトン散乱の2次元再構成実験・解析をウラン化合物に適用して、5f 電子の局在・遍歴性の変化や、URu2Si2における隠れた秩序転移に伴う電子状態の変化を観測し、実験結果とバンド計算とを比較することにより、運動量密度分布・電子占有数密度の観点から、ウラン化合物における電子構造の全容と5f 電子の寄与を解明することである。このうち、当該年度の研究計画として、UPd2Al3単結晶試料の(001)面とURu2Si2単結晶試料の(100)面においてコンプトン散乱2次元再構成測定・解析を行い、それぞれ、5f電子の遍歴・局在性の変化と隠れた秩序相の電子状態を調べた。 SPring-8の2013A期、2013B期において放射光実験を実施し、各試料について、運動量密度分布を観測することができた。また、それぞれの試料において、f電子を遍歴させたモデルと局在させたモデルのバンド計算も実行し、その結果から実験結果に対応する運動量密度分布を求めた。実験と理論の比較から、局在・遍歴性や隠れた秩序相の電子状態に対して、5f 電子が深く関与していることを示唆する結果が得られており、当初の目標は計画通り達成されている。
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今後の研究の推進方策 |
当該年度において、URu2Si2単結晶の(100)面で行ったコンプトン散乱2次元再構成測定・解析より二次元の電子運動量密度分布を求め、隠れた秩序相の電子状態について、より詳細な情報を得ることができた。最終年度では、隠れた秩序転移温度の高温側の常磁性相において、(100)面の二次元再構成実験を行い、(001)面での実験結果と合わせて考察することにより、3次元の運動量空間やブリルアン・ゾーンにおいて、隠れた秩序転移に伴う電子状態の変化が、どのバンドで起こっているのか、運動量空間やブリルアン・ゾーンのどの位置で起こっているのか を特定し、電子構造の全体像とその変化に対する5 f 電子の寄与を明らかにする。 また、Ruの一部をRhで置換した試料において、同様の測定を行う。Rh置換により反強磁性相が現れるが、隠れた秩序相と反強磁性相の状態密度には違いがないと考えられている。隠れた秩序相における秩序パラメータを考えるうえでも、この2つの相の電子構造が、類似しているのか、違いがあるのかを実験的に示すことが必要と考えられる。本測定により、運動量密度分布、電子占有数密度分布の点から電子構造の類似性・相違性を明らかにしたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
放射光実験の実施にあたり、2013A期に2件の課題申請を行ったところ、1件の課題が優先され、もう一件の課題の採択が得られなかったことにより、実験費用分の差額が生じた。 差額分は次年度の研究費と合わせて、2014A期、2014B期における放射光実験の費用、国内外での学会発表、これまでの成果についての論文投稿、に使用する。
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