5 f 電子系の重い電子化合物であるURu2Si2を対象に、ウランの5 f 電子が示す遍歴・局在性の変化や、特に、この物質において25年来の謎である「隠れた秩序転移」に関わる電子構造の変化を、運動量密度分布と電子占有数密度の観点から明らかにすることを目的として、SPring-8において放射光X線を利用したコンプトン散乱二次元再構成実験を行った。 研究の初年度には、単結晶試料の(001)面における測定から、二次元運動量密度分布や電子占有数密度を求め、バンド計算から求めた電子占有数密度との比較を行った。その結果、高温では5 f 電子の局在性が確認され、低温側で遍歴的になるものの、一部の5 f 電子に局在性が残っていることが分かった。更に低温の隠れた秩序相において5 f 電子が最も遍歴的になっており、隠れた秩序転移に伴いバンド構造が大きく変化することを実験的に明らかにした。この結果については、現在、論文投稿中である。 二年目には、単結晶試料の(100)面において測定を行い、前年度と同様、二次元再構成解析により運動量密度分布を求めた。更に、バンド計算も行い、(100)面に射影された理論的な運動量密度分布を求め、実験結果と比較することにより、隠れた秩序転移における電子状態の変化が、運動量空間やブリルアン・ゾーン内のどの位置で起こっているのか、詳細な検討を行った。 最終年度には、同様の実験解析によりURu2Si2のRuの一部をRhで置換した単結晶試料において、隠れた秩序相と競合する反強磁性相の運動量密度分布および電子占有数密度分布を求めた。これまで、隠れた秩序相と反強磁性相の電子構造には大きな違いは無いと考えられていたが、前年までの実験結果との比較から、実際には、電子構造に違いが有ることが明らかとなった。
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