研究課題/領域番号 |
24540384
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
矢口 宏 東京理科大学, 理工学部, 教授 (30314173)
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キーワード | グラファイト / 密度波 / 強磁場 |
研究概要 |
グラファイトは半金属であり、その電子・正孔系は、低温強磁場下(約20-30テスラ以上)で電荷密度波相またはスピン密度波相と考えられる磁場誘起相転移を逐次的に起こし、約53テスラ付近で正常相へとリエントラント転移していると考えられていた。しかしながら、我々の昨年度の研究を含む、最近の研究によって、約53テスラを超える磁場領域においても、何らかの秩序相が形成されていることが有力視されることとなった。縦磁気抵抗においては、約75テスラまでの測定の結果、約53テスラ以上でも異常が見いだされ、その温度依存性は絶縁体的であった。また、約53テスラ以上の磁場領域においても、53テスラ以下の密度波相と同様に、密度波のスライディングと解釈される非線形伝導が観測され、類似の秩序相であることが有力視される。 このことを受けて、横磁気抵抗についても、約75テスラまで測定領域を拡張した。横磁気抵抗においては、縦磁気抵抗とは対照的に特に異常は見られなかった。また、温度依存性も金属的であった。これは、53テスラ以下の密度波相では見られない特徴で、非常に特異かつ異方的な電子相の形成を示唆している。(横磁気抵抗においては、非線形伝導の観測されておらず、試料依存性等を含めて、更なる研究が必要である。) また、この53テスラ以上の秩序相の熱力学的な検証を意図して、磁化測定も約75テスラまで拡張した。53テスラ付近にわずかながら異常が見られたが、これが電子相転移によるものか、フェルミレベルをバンド端がよぎることに対応した、一電子的な振る舞いによるものであるのかは、現時点では明らかではない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
前年度の末に発見した、約53テスラ以上の強磁場領域における新たな秩序相の解明を企図して、約75テスラまでのパルス磁場を用いた測定を中心に研究を進め、重要な知見を得た。その一方で、その方針の影響もあって、トンネル接合に関する研究の進行が遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
約53テスラ以上の強磁場領域における新たな秩序相の解明を目指して、多様なグラファイトのグラファイトの測定を行う。特に、不純物や格子欠陥の効果によって、電子・正孔数の補償の悪く、一般的には転移温度の下がる試料を用いた測定を行い、秩序相が移り変わる約53テスラ付近での振る舞いに注目して研究を行う。 また、接合系の電流電圧特性を進める。これは、約53テスラ以上の秩序相に限らず、従来から知られている53テスラ以下の秩序相(密度波相)も含めて、秩序相の形成に伴うエネルギーギャップの観測によって、秩序相に関するより直接的な証拠を得ることを意図している。
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次年度の研究費の使用計画 |
予定していた設備備品に関して、より安価な代替品を見つけて購入したこと、また、パルス磁場の実験を優先して行ったこともあり、当該年度の研究費からの物品費の繰越が発生した。 主として、接合系のゼロ磁場または低磁場中の基礎測定のための寒剤代などの消耗品代(および少額の設備備品代)として使用する予定である。それ以外は、国内旅費などに使用する。
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