研究課題
本研究課題では,4f電子が生み出す量子ゆらぎによる量子相転移現象を,4f電子数(価数)ゆらぎという観点から理解するために,複合極限環境(温度・磁場・圧力)下でのCeおよびYb化合物のX線吸収による価数相図の作成を目指している.今年度はCe系化合物に焦点を絞り,様々なCe化合物に対するCe価数を評価するために,Ce L3-吸収端でのX線吸収スペクトルの温度変化(4-300 K)や圧力変化(0-15 GPa)測定をSPring-8 BL39XUにおいて実施した.また,量子相転移現象を理解する上で,関連物質となるPr化合物やYb系化合物に対する価数評価も並行して行った.Ce L3-吸収端エネルギーは,5.7 keVと低く,高圧下測定で利用する高圧セルの窓材(ダイヤモンド)のX線透過率が低くなり,統計精度の高いX線吸収スペクトルを得るのが困難となる.そこで窓材に穴加工を施すことでX線透過率の向上を図り,高品質のスペクトルを得ることに成功した.一方で,微小な価数変化も敏感に捉えることが可能なX線発光分光測定をCe系化合物に適用することに成功した.また,様々なYb化合物の結果と併せて,X線発光分光を利用した高エネルギー分解能X線吸収スペクトルによる価数評価に対する問題点の解決法を見出した.X線吸収・発光分光と電気抵抗の同時計測が可能な小型高圧セルに対して,温度低下による圧力増大の問題点を解決し電気抵抗計測を試みたところ,端子がダイヤモンド・アンビルによって切断される問題点が発覚した.高圧セルやアンビル形状の改良を進め,電気抵抗計測の早期実現を目指す.上記の実績を踏まえ,最終年度は価数評価において重要な鍵となるマクロ物性(電気抵抗)や結晶構造(粉末X線回折)の評価を同一試料環境下(in-situ)で行い,価数と物性定数の相関をより確実に決定付けることを目指す.
3: やや遅れている
今年度の実施計画のうち,Ce系化合物に対するCe価数評価法の確立と,温度-圧力相図の作成は達成することができたものの,X線吸収・発光分光と電気抵抗またはX線回折を同時計測するためのシステム構築は達成できなかった.一方で,高圧セルの温度低下による圧力増大の問題は,セルの改良によって解決した.しかしながら,高圧下での電気抵抗計測において,端子がダイヤモンド・アンビルによって切断されてしまう問題が新たに発覚し,セルやアンビル形状のさらなる改良が必要であることが判明した.
様々なYb系化合物およびCe系化合物における価数評価が概ね成功したことにより,最終年度は,「高圧下での電気抵抗計測システムの構築」を優先的に推進する.高圧下での電気抵抗計測に際し明らかになった問題点の解決を進め,その早期実現を目指す.これによって,最終年度でYb系またはCe系化合物におけるマクロ物性と価数の同一環境下測定を実現し,それらの相関を明らかにする.また,電気抵抗計測が実現された場合,X線回折の計測へと着手し,X線吸収による価数とX線回折による結晶構造(体積変化)との相関を明らかにすることを目指す.上記の内容を実現するにあたり,電気抵抗計測で実現可能な試料厚さとX線吸収またはX線回折に最適な試料厚さのマッチングの問題が生じることが予測される.本問題点に関しては,電気抵抗計測用試料のサンプリング技術向上を目指し,X線吸収と電気抵抗計測の同時計測が実現可能な試料厚さの条件を見出す.
X線発光分光計測用のアナライザー結晶の購入に際し,その仕様検討に多くの時間を費やしたこと,および結晶の製作にも時間を要することにより,平成25年度内の納品が困難となったため,繰越金が発生した.平成25年度に購入予定であったX線発光分光計測用のアナライザー結晶は,その仕様はすでに決定しており,平成26年度初旬に納品される予定である.
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Journal of the Physical Society of Japan
巻: 83 ページ: 013701
10.7566/JPSJ.83.013701
X-ray Spectrometry
巻: 42 ページ: 450-455
10.1002/xrs.2502