• 研究課題をさがす
  • 研究者をさがす
  • KAKENの使い方
  1. 課題ページに戻る

2013 年度 実施状況報告書

可積分量子多体系の非平衡ダイナミクスと相関関数:再帰性と量子エルゴ―ド定理の検証

研究課題

研究課題/領域番号 24540396
研究機関お茶の水女子大学

研究代表者

出口 哲生  お茶の水女子大学, 大学院人間文化創成科学研究科, 教授 (70227544)

キーワード非平衡ダイナミクス / 可積分量子系 / 量子多体系 / 典型性 / XXX模型 / 形状因子 / ウイルソン比 / 近藤効果
研究概要

可積分模型である量子XXX鎖および量子XXZ鎖における量子状態をベーテ固有状態を用いて構築し、その時間相関(フィデリティ)を計算する。フィデリティー(fidelity) とは、初期時刻における量子状態 |Φ(t=0)> と時間発展した後の量子状態 |Φ(t)> がどの程度近いかを表す量であり、初期時刻における量子状態と時刻tにおける量子状態の重なりの絶対値の二乗である。量子状態の緩和時間あるいは平衡化時間のサイズ依存性を明らかにすることが目的である。
その結果、孤立した可積分量子スピン系のダイナミクスの特徴付けがなされた。そして可積分量子スピン系において、さらにその典型的な量子状態に対して、緩和時間あるいは平衡化時間のサイズ依存性が明らかになった。フィデリティーに関しては、その緩和時間は主に構築する量子状態のエネルギー幅で決まり、システムサイズ依存性は見られなかった。
量子XXX鎖の局所磁化の時間発展を形状因子公式を用いて厳密に追跡した。その結果、局所磁化の緩和時間はフィデリティーの緩和時間よりもはるかに長くなることが明らかになった。ここで用いた形状因子公式の導出も新しい結果である。
近藤問題など不純物を含む系の量子ダイナミクスを研究する準備として、不純物を含む可積分量子XXZ鎖のベーテ方程式の解を数値的に求め、不純物磁化率と不純物比熱を求めた。この二つの物理量の比を計算すると、近藤問題など量子不純物の効果を特徴づけるウイルソン比が導かれる。 ウイルソン比はユニバーサルな量であり、その値を求めることにより、不純物を持つ量子XXZ鎖の属するユニバーサリティークラスが明らかになった。その結果、対応する共形場理論のコンパクト化半径で与えられることが分かった。この研究成果に基づいて、今後は不純物をもつ可積分量子系においても、その時間相関やダイナミクスを厳密に調べる。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

以下の3項目の研究を予定していた。
(1)量子エルゴ―ド定理の検証:期待値の時間変動の数値評価: ベーテ固有状態を重ね合わせて様々な初期状態を導き、演算子の期待値の時間変動を評価する。量子エルゴ―ド定理の理論的帰結が妥当かどうか、確認する。
(2)局在波解をベーテ固有状態の重ね合わせで構築することの試み(量子XXZスピン鎖): 量子XXZ鎖に対して、ベーテ固有状態を重ね合わせて量子状態を導き、磁化密度プロファイル(密度演算子の期待値)を数値的に求める。孤立局在波など、物理的に面白い状態を導く。
(3)量子XXZ鎖の任意の状態ベクトルをベーテ固有状態の和で表すアルゴリズムの研究: Kitanine et al (1999) による量子逆散乱問題の本格的な発展版である。 彼らの研究により、任意の局所演算子が代数的べーテ仮設法の生成消滅演算子で表された。しかし、任意の量子状態をベーテ仮設固有ベクトルの線形結合で表すには、さらにいくつかの工夫が必要である。下向きスピンが2個のとき、任意の量子状態をベーテ固有状態の和で表す公式の導出を試みる。そしてこれを手掛かりにして一般化する。
以上の課題の中で、(1)量子エルゴ―ド定理の検証に関しては、量子XXX鎖の量子状態に対するフィデリティーの数値評価と、局所磁化の時間発展を求めたことにより、かなりの部分を達成できたと言えるであろう。(2)局在波解の構築に関しては、実はスピノン状態を全部足し合わせた量子状態で局在波解を実現できることを最近発見した。このため、実質的にこの課題は達成できた。(3)任意の量子状態をベーテ固有状態の重ね合わせで表すことは、現在まだ達成できていない。
以上、3項目のうち2項目までは達成できたので、研究はおおむね順調に進行している。

今後の研究の推進方策

全体としてはおおむね順調に進行しているので、当初の計画にほぼ近い形で研究を進めていくことで問題はなさそうである。
特に、量子XXZ鎖の局所磁化に関する非平衡ダイナミクスのシミュレーションは非常に興味深く、次々に新しい成果が導かれる兆しが現れている。この研究をしっかり推進していきたいと考えている。
さらに、近藤問題に関しても順調に研究が進んでいる。不純物を含む系の量子ダイナミクスを研究する準備として、不純物を含む可積分量子XXZ鎖のベーテ方程式の解を数値的に求め、不純物磁化率と不純物比熱を求めた。そこで、この成果を発展させて、不純物を含む可積分量子多体系のダイナミクスを議論することができると思われる。

次年度の研究費の使用計画

年度をまたぐ国際会議に参加するため、前倒し請求を行った。その一方、年度中に使用した金額は前倒し分よりも少なかったので、差が生じた。すなわち、全旅程の中で年度中に移動した部分に相当する旅費のみを年度中にを使用したため、見込んだ旅費よりも少なかったのである。
次年度使用額を用いて、旅程の中で次年度中に移動する部分の旅費にあてる。

  • 研究成果

    (7件)

すべて 2014 2013 その他

すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (6件) (うち招待講演 4件)

  • [雑誌論文] Exact quantum dynamics of yrast states in the finite 1D Bose gas2014

    • 著者名/発表者名
      E. Kaminishi, J. Sato, T. Deguchi
    • 雑誌名

      Journal of Physics: Conference Series

      巻: 497 ページ: 012030

    • DOI

      doi:10.1088/1742-6596/497/1/012030

    • 査読あり
  • [学会発表] 1次元ハイゼンベルグ模型の緩和時間2014

    • 著者名/発表者名
      畠山遼子、Pulak Ranjan Giri、出口哲生
    • 学会等名
      日本物理学会第69回年次大会
    • 発表場所
      東海大学湘南キャンパス
    • 年月日
      20140327-20140330
  • [学会発表] 量子XXZ鎖と可積分高次スピンXXZ鎖における任意の局所演算子に対する2014

    • 著者名/発表者名
      出口哲生
    • 学会等名
      日本物理学会 第69回年次大会
    • 発表場所
      東海大学湘南キャンパス
    • 年月日
      20140327-20140330
  • [学会発表] Non-Equilibrium Dynamics of Integrable Systems and Typicality2014

    • 著者名/発表者名
      T. Deguchi
    • 学会等名
      Quantum Integrability, Conformal Field Theory and Topological Quantum Computation
    • 発表場所
      Natal, Brazil
    • 年月日
      20140323-20140406
    • 招待講演
  • [学会発表] Non-equilibrium dynamics in isolated quantum integrable systems2013

    • 著者名/発表者名
      Tetsuo Deguchi
    • 学会等名
      East Asia Joint Seminars on Statistical Physics 2013
    • 発表場所
      京都大学基礎物理学研究所
    • 年月日
      20131021-20131024
    • 招待講演
  • [学会発表] 可解量子系の非平衡ダイナミクスと統計力学の基礎2013

    • 著者名/発表者名
      出口哲生
    • 学会等名
      日本物理学会2013年秋季大会
    • 発表場所
      徳島大学常三島キャンパス
    • 年月日
      20130925-20130928
    • 招待講演
  • [学会発表] 孤立量子系における非平衡ダイナミクスと可解模型

    • 著者名/発表者名
      出口哲生
    • 学会等名
      早稲田大学高等研究所Top Runners’ Lecture Collection of Science
    • 発表場所
      早稲田大学高等研究所
    • 招待講演

URL: 

公開日: 2015-05-28  

サービス概要 検索マニュアル よくある質問 お知らせ 利用規程 科研費による研究の帰属

Powered by NII kakenhi