研究課題/領域番号 |
24540398
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 東邦大学 |
研究代表者 |
川口 高明 東邦大学, 医学部, 教授 (10273913)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | ナノ界面 / 自走ダイナミクス / 緩和 / 自己駆動 |
研究概要 |
まず,ナノ界面系を想定して,そこで自己駆動力を発生して稼働するナノマシンの理論モデルを検討した。ここでは,ナノマシンの物質として外場によって形状変化が可能な分子系を取り上げ,その重要な分子特性を考慮した。そして,マシンを構成する分子系と基板となる物質表面と相互作用,及び電磁波等による分子構造の時間空間変調の効果などを重視したモデルを構築した。 また,シミュレーションからデータ解析までを行えるシミュレーション環境を構築した。一部の大規模なシミュレーションは,共同利用機関のスーパーコンピュータを援用した。機器整備と併行して,上記のモデルをもとにした分子動力学シミュレーションのためのプログラム開発を進めた。コンピュータシミュレーションの高速化のためのアルゴリズム等の検討も随時行った。 上記のモデルのコンピュータシミュレーションによって,具体的には,次のような成果を得た。まず,上記の時間空間変調効果による自己駆動力の発生を確認し,その物理機構を明らかにした。そして,自己駆動力をもとに固体表面を分子系が方向性を有して自走可能であることを解明した。さらに,ナノマシン内の分子運動の時間発展を解析して,統計物理学的な理論解析を援用して,自己駆動の物理機構・素過程を明らかにした。そして,このナノマシンは多様な自走ダイナミクスを示すことも明らかになり,その基本特性を理解することができた。また,直進及び反転のリエントランスのような新奇な自走状態が系のパラメータ変化に対して複雑に引き起こされる事を見出し,その発生機構と共に,特異な長時間緩和効果の影響などを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
目的に掲げたとおりに,自己駆動を可能とするナノマシンの理論モデルの構築と,それを解析するための計算機環境の整備を進め,詳細なコンピュータシミュレーションの実行並びに理論解析までを行えた。これらは研究目的及び計画の初年度の内容に沿ったものであり,それらを具体的に達成している。さらに,その成果として,研究実績の概要に記したとおり,ナノマシンにおける自己駆動力の発生機構,自走の素過程と新奇なダイナミクス等が次々と理論的に解明できたことは強調できる。 これらをもとに,学会発表,国際会議発表,査読付き論文の掲載を実現して,成果を公表できた。これらの研究成果の内容も,統計物理学的にみて非自明かつ重要な現象及び効果の解明となっている。これらの事から,本研究は順調に進展しているものと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
初年度の成果をもとに,自己駆動及び自走に関して,統計物理学における諸概念をもとに,非線形ダイナミクス,長時間緩和,相転移臨界現象等の点から深く理解を進める。特に,長時間緩和の効果は,予想外の新奇な効果をもたらしていることが明らかになってきたため,重点的に調べることにした。 また,自己駆動及び自走のために,外場による時間空間変調の効果を利用しているが,この方法では,変調に関する各種物理量のパラメータに対して,非常に多様かつ複雑な自走ダイナミクスが現れる。これは予想を超えて複雑かつ,新奇な物理現象であり,次年度もある程度集中してさらに詳しく調べることとした。そして,ナノマシンの緩和効果,多体効果及び界面との相互作用等から生じる新奇なダイナミクスを中心として,自己駆動・自走に関する未知の非線形・非平衡現象を解明する。 なお,データ解析及び各種処理のために,専用の計算機の機能を強化して,コンピュータシミュレーションから得られる膨大なデータから物理的に有益な情報を取り出すための効率を向上させる。併せてコンピュータシミュレーション能力の向上のための計算機環境の整備,及びシミュレーションアルゴリズムの改良等を随時行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度は,外部共同利用施設における大規模シミュレーションの利用頻度の向上,及び想定していたシミュレーション機器の性能等に関してする動向の見極め等の対応,さらには所属の移動並びに新規の研究室立上げといった複数の要因が重なったために,未使用額が生じた。 次年度においては,この分を有効活用して,集中的にコンピュータシミュレーション性能の向上のための機器整備とプログラム開発支援ソフトウェア等に充当するとともに,合せて研究発表旅費及び研究資料購入に使用する計画である。
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