研究課題/領域番号 |
24540398
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研究機関 | 東邦大学 |
研究代表者 |
川口 高明 東邦大学, 医学部, 教授 (10273913)
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キーワード | ナノ界面 / 自走 / 自己駆動 / 非平衡動力学 |
研究概要 |
ナノ固体表面におけるナノ粒子系の自己駆動及び自走現象について,計算機シミュレーションの方法と解析的方法を用いて統計物理学的視点から調べた。 ナノ固体表面と粒子系について格子系の理論モデルを検討した。ここで,粒子系はナノ固体表面と相互作用しながら,基板としてのナノ固体表面上を運動できる状態を考えた。粒子系は外部からの電磁波等の励起によって,その平均粒子間隔が時間空間的変調を受けるという方法を採用し,系の外からの一方向的な外力が存在しない場合を考えた。このような駆動の原理と特性の解明は,ナノ界面における自走現象の研究及びナノスケールで機械的動作をするナノマシンの統計物理学的研究において基本的な重要性をもっている。 ここで,粒子系の運動が外部からの変調に対して断熱的に追従するかどうか(断熱的または非断熱的)によって,自走速度にロッキング現象が生じるかどうかが決まることが明らかになった。このロッキング速度は時間空間的変調の時間周期及び基板の固体表面の原子レベルでの空間的周期に依存することが確認された。さらに,粒子系の運動が完全に断熱的でなくとも,自走速度のロッキングが生じることが分かった。この状態は準断熱的であると呼ぶことができ,この粒子系における粒子関相互作用に起因した緩和効果に加えて,変調効果が複雑に影響を及ぼしたことが原因であることが明らかになった。このように,断熱的運動かどうかという点に着目することによって,時間空間的変調を受けた粒子系の自走に関する非平衡ダイナミクスを理解することができた。 なお,シミュレーションは,主に分子動力学的手法にもとづいており,その計算の高速化のための検討として,アルゴリズムの改善及びプログラム改良等を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ナノ固体表面上の粒子系において,時間空間的変調という方法で系を励起すると自己駆動効果が発現して固体表面上を自走することが分かり,その普遍性及びそのダイナミクスの新奇な特性の詳細に踏み込んで物理学的な解明ができたためである。 特に非平衡物理学の観点から,断熱的,準断熱的効果を明らかにし。これをもとに自走速度についてのある程度深い理解に達しており,これは自己駆動・自走系及びナノマシン系の統計物理学的研究における重要な成果といえる。
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今後の研究の推進方策 |
調べてきたナノ界面系の状況を,より一般化して,これまでに確認できた自走現象等がより普遍的な現象として理解できることを明らかにして行く。自走のダイナミクスを粒子系の緩和現象に関して,普遍的な理解を進めるために,統計物理学的な手法として,例えばスケーリング解析などを検討する。自走の関係する重要なテーマとして,ナノマシンの構成及び物理学的な駆動原理に関して様々な形態の可能性を探る。また,系の励起方法として,これまでと異なるタイプの時間空間的変調法及び他の方法について,それによる自己駆動・自走の発現の可否等を明らかにする。これらを経て,自己駆動と自走に関して得られた新奇な物理学的現象及び効果等の統一的理解を進めて研究の総括をする。 上記研究遂行に際して,計算機シミュレーションを常時行っていくが,そのシミュレーションプログラム本体及びその周辺のデータ解析プログラムの改良等は随時行う。また,計算機シミュレーションで得られる多大なデータを管理及び解析するためにソフトウェア及び機器の整備等を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
購入予定であった機器の性能及び価格等の変更があり,その性能に対する評価について価格を考慮した上である程度の時間をかけて検討する必要が生じたためである。購入時期を変更しても研究遂行上支障がないとの判断の上で,次年度において機器導入のために使用することとした。 購入予定機器の性能上の検討・評価は価格を考慮した上ですでに行っているので,機器の選別及び価格に関しての支障はない。平成25年度分交付分と次年度分の一部について,次年度前半にデータ処理・管理等のための機器の導入に充てる計画である。次年度分は,他にも関連装置,消耗品,及び旅費等に充てることとしている。
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