ナノ固体表面におけるナノマシン系の自己駆動及び自走現象について,統計物理学的観点から理論的に調べた。 分子系ナノマシンを想定して,いくつかのタイプのナノ固体表面と分子マシンについて理論モデルを再検討し,モデルの妥当性について確認も行った。なお,ここで分子はナノ固体表面と相互作用しながら,基板としてのナノ固体表面上を表面ポテンシャルを感じながら運動できる状態を考えた。分子は外部からの電磁波印加によって,その平均分子間隔が時間空間的変調を受けるという方法を主に採用した。系の外部からの一方向的な外力が存在しない場合においても,分子系は自己推進力を発現し,ナノマシンとして有方向性運動を行うという現象について,そのある種の普遍性及び物理特性の詳細が明らかになった。特に,マシンの運動が外部からの変調に対して断熱的または非断熱的に追従するかどうかによって,自走ダイナミクスにそれぞれの状態に特徴的な現象が生じることが詳細に明らかになったことは重要であると考えられる。その現象の一つが自走におけるある種のロッキング現象であり,ロッキングにより自走速度は量子化される。さらに,粒子系の運動が完全に断熱的でなくとも,自走の速度のロッキングが生じ,その状態において準断熱的な特異な自走ダイナミクスとともに,この粒子系における粒子関相互作用に起因した長時間緩和が存在することも明らかになった。これには分子-固体界面における相互作用及び外部からの変調効果の影響が本質的であることが理解された。そして,これらの事をもとに,時間空間的変調を受けた分子ナノマシン系の自走特性のスケーリング解析がなされ,スケーリング則・関係式と自走状態を特徴付ける相図を明らかにすることができた。これらを総括することによって,本研究において取り上げたナノマシン系の自己駆動の素過程及び自走の非平衡ダイナミクスが普遍的に理解された。
|