研究課題/領域番号 |
24540403
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
吉野 元 大阪大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (50335337)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | ガラス転移 / ジャミング転移 / レプリカ理論 / 液体密度汎関数理論 / 分子動力学シミュレーション |
研究概要 |
コロイド、エマルジョン、粉体などは密度の増大とともにガラス転移、さらにジャミング転移を示す。ジャミング転移を示すこれらの系の重要な特徴は、粒子間相互作用が、接触型の斥力相互作用であるという点である。本年度はこれらの系における剛性率を、クローン液体の方法を用いて第一原理的に計算する方法論を開発し、実際に3次元系で具体的な計算を行った。さらに、分子動力学シミュレーションによる応力緩和過程の数値解析を行い、理論的に得られた結果との定量的比較を行った。 クローン液体論に基づく第一原理的計算の成果は次の通りである。まず、H. Yoshino, M. Mezard, Phys. Rev. Lett. 105, 015504 (2010)の方法を基に、接触型相互作用ポテンシャル特有の特異性から来る解析上の困難を回避できるように、理論の再定式化を行った。次に、エマルジョン系の標準的なモデルポテンシャルを用いて、ジャミング転移点近傍、有限温度における剛性率の計算を具体的に行った。その結果、剛性率は、圧力と同じ密度依存性を示すことが明らかになった。この結果は以前に行われた、高密度エマルジョン系における線形粘弾性測定実験(T.Mason et. al. Phys. Rev. Lett. 75,2051 (1995)) の結果と整合しており、この実験結果を初めて第一原理的な理論によって捉えることができた。 MDシミュレーションによる応力緩和過程の数値解析の成果は次の通りである。モデル系としては、上記の理論モデルを用い、その応力緩和過程の詳細な数値解析を東京大学物性研究所のスーパーコンピュータを用いた並列計算によって行った。その結果、ジャミング転移点近傍での有限温度での剛性率は、圧力にほぼ一致することがわかり、上記のエマルジョンでの実験、および今回の第一原理的な計算の結果と整合する結果を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はまず、ジャミング転移を示す接触型相互作用系における剛性率を、第一原理的に計算する理論の構築を行うことができた。これには幾つかの技巧的な工夫を要し、ハードルは低くなかったが、年度の前半で達成することができた。次にジャミング転移を示す具体的なモデル計算を行い、さらに独立した数値シミュレーションによって理論の結果を検証し、その妥当性を確かめることが出来た。この本年度の成果により、通常のガラス転移のみならず、ジャミング転移における剛性率の第一原理的な計算を実際に行うことが可能になり、理論の適用範囲が大きく広がった。以上は初年度の研究計画のコア部分である。 さらに、次年度以降の研究の推進のための予備研究、特に高温領域をカバーする理論構築の準備を行い、その骨格部分を作る事ができた。以上のことから、本研究はこれまでのところ順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
今後、基礎理論の展開として3つの方向を考えている。第一に、本研究でこれまで用いてきた、低温側で有効なケージ展開の代わりに、これと相補的な高温側からのアプローチ、具体的にはレプリカHNC(Hyper-Netted-Chain)近似を用いた理論の構築を行う。これは、レプリカ理論と相補的な関係にあるモード結合理論と、レプリカ理論の整合性を確立するためにも重要な課題である。本年度予備的な考察を行い、理論の骨格部分は既に作っている。 第二に、これまで、標準的なガラス転移に対する平均場描像に基づき、1段階のレプリカ対称性の破れ(1-RSB)を想定した理論を作ってきたが、より高次のRSBを取り入れた理論の構築、具体的な計算手法の開発を行う。特に、これはジャミング転移の物理を解明するため重要な役割を果たすことになると期待される。実際、本年度行ったジャミング系の研究から、1-RSBは長時間極限での剛性率そのものの振る舞いは正しく捉えているが、そこにいたるまでのゆらぎの特性などは、1-RSBレベルでは捉えられず、より高次のRSBを示唆していることがわかってきている。 最後に、ケージサイズの空間ゆらぎと弾性ひずみの結合を取り入れた、クローン液体論を展開する。特に、ケージサイズのゆらぎの間に、弾性歪みを介した長距離相互作用が生まれると期待されるが、その特性を解析する。さらに、ガラスの物理で重要な、動的不均一性との関係を明らかにする。以上の基礎理論上の課題への取り組みと並行して、より多くの具体的な系でのモデル計算と、MDシミュレーションによる検証を同時に進めて行く。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額4003円は、消耗品の購入に使用する予定である。
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