研究概要 |
本年度は、ガラス転移およびジャミング転移における「剛性」(シアモジュラス)の振る舞いについて、厳密に解ける高次元極限における理論解析を行った。一方、分子動力学(MD)シミュレーションに基づく数値解析によって、ジャミング転移点近傍におけるシア応力緩和、およびこれに共役なシア応力の動的自己相関関数の詳細な数値解析を行った。 理論解析は、高次元極限における剛体球ガラス系において具体的に行った。解析の結果、(1) 動的ガラス転移点における剛性率の飛びとそれに続くsquare-root特異性、(2) ジャミング転移点近傍における剛性率の階層構造とスケーリング特性を厳密な計算によって明らかにすることができた。(投稿中: H. Yoshino and F. Zamponi, プレプリント arXiv:1403.6967) 特に(2)は、従来のrandom first order transition (ROFT) 描像で想定されていた1段階のレプリカ対称性の破れに加えて、連続RSBが上乗せされて起こっている(P. Charbonneau, J. Kurchan, G. Parisi, P. Urbani, F. Zamponi, arXiv:1310.2549.) ことの直接的な反映であることが注目される。 一方、MDシミュレーションにおいては、実際の高密度コロイドやエマルションのガラス状態を念頭にした接触型相互作用ポテンシャルを用いた3次元系を解析した。解析の結果、(a) シア応力緩和が特異な2段階緩和を示す事、(投稿中 S. Okamura, H. Yoshino, プレプリント arXiv: 1306.2777) , (b)シア応力緩和とこれに共役なシア応力相関関数によって定義される「有効温度」が非自明な「1+連続」構造をとる事がわかった。(投稿準備中) これらの結果は上記の理論解析の結果(2)と整合的であり、興味深い。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度行った研究で、高次元極限における剛性率の理論解析は予想を越えた結果を生んだ。昨年度までの成果(例えば H. Yoshino, J. Chem. Phys. 136, 214108 (2012) )は、従来のROFT描像の想定する1段階のRSBの範囲内での近似計算の結果であるが、本年度の結果は (i) 厳密な結果であること(ただし、高次元極限で) (ii) RFOTの想定していない連続RSBまで一般化した結果であること (iii) これまでの関連する研究による数値計算、また本研究で行っているMDシミュレーションで得られている結果を良く説明し、かつ特に説明が難しかった(a)「2段階緩和」について明解な解釈を提供している、などの点で著しい。これらはいずれも当初の予想を越えた成果である。
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