量子相関の性質に関し、『受信者が受け取れる情報量は、量子力学的な非局所資源を使ったとしても、古典通信のビット数より大きくはなり得ない』という情報因果律は重要な役割を果たしている。実際、情報因果律を物理原理として採用することにより、量子力学では許されない非局所相関(の一部)を上手く排除できることが知られている。しかしながら、情報因果律の情報理論的導出を精査することで、或る種の非局所資源(具体的には部分的にエンタングルした状態)を非局所資源として使った場合には、古典通信に不可避的なランダムネスが乗ってしまうことが分かった。このランダムネスは量子力学にのみ特徴的に内在するものであり、通信プロトコルの工夫等によって除去することはできない。このような内因性のランダムネスが情報因果律にどのような影響を及ぼすのかを調べることは、非古典相関の基本的な性質を調べる上で極めて重要であるので、その研究を実施した。まず、量子力学が満たすべき情報因果律の公式を、内因性ランダムネスの効果を取り入れるように拡張した。導出された公式は非局所相関の或る量子境界において正しく飽和しており、タイトな不等式になっている。このことは、情報因果律に対する内因性ランダムネスの影響の大きさを示すとともに、我々が導出した情報因果律の公式の強力さを示すものである。また、系の次元、状態や測定量などに何の仮定も置くことなく、内因性ランダムネスの下限を計算する方法を示した。これはdevice-independent法と呼ばれる方法の一つで、近年、量子暗号などの量子情報処理への応用が広がっている。我々のdevice-independet法で求めることができる下限は、同時に非直交性の下限にもなっており、量子暗号への応用可能性も示唆されるものである。現在、この成果は論文投稿中である。
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