研究課題/領域番号 |
24540407
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
福本 康秀 九州大学, マス・フォア・インダストリ研究所, 教授 (30192727)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | カシミール不変量 / トポロジー的不変量 / ネータ―の定理 / バロクリニック流体 / ケルヴィン波 / 波のエネルギー / 渦対 / 運動速度 |
研究概要 |
エントロピーとポテンシャル渦度の任意関数を含む積分であるカシミール不変量はバロクリニック流体のトポロジー的不変量である。これをオイラー・ポアンカレ形式に関するネータ―の定理によって特徴づけた。バロクリニック流体のシア―流の安定性条件として、2次元撹乱に対するリチャードソン数条件が知られているのみで、3次元安定性条件は導かれていない。カシミール不変量を最大限に活用して、バロクリニック流体の定常流が3次元撹乱に対して安定であるための十分条件を数学的にあいまいさのない形で導くことにはじめて成功した。 回転流や立つ3次元波をケルヴィン波といい、軸対称性や並進対称性を破る摂動を加えると2個のケルヴィン波が共鳴不安定を起こす。ハミルトン力学系のスペクトル理論によると、ケルヴィン波のエネルギーの符号が不安定化の鍵を握り、弱非線形振幅方程式の形をも決めてしまう。波のエネルギーは振幅ついて2次の積分量で、容易には求められないが、線形分散関係の周波数に関する微分から計算できることをケルヴィン波の場合に対して示した。 2次元渦運動に対しては、一様渦度の場合には精緻な数値計算法が整備されて、渦領域の同士の相互作用が詳しく調べられてきたが、非一様な渦度分布をもつ場合はほとんど扱われてこなかった。互いに平行で反対符号の直線状渦管の対は、2本の渦管の中心線を含む面に垂直な方向に並進運動を行う。粘性流体中での渦対の運動速度を高精度で計算するための理論的枠組みを構築した。渦度重心を定義し、その移動速度に対する恒等式を導いた。軸対称渦輪の運動以外ではじめて得られた恒等式である。この恒等式にストークス方程式にしたがう渦度を代入して、低レイノルズ数での渦対の運動速度を導いた。初期段階および減衰段階での運動速度の漸近形を導出し、直感的なモデルに導かれた従来の結果の誤りを指摘した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
渦管の弱非線形安定性に対するオイラー・ラグランジュ混合法を開発については、アルゴリズムが完成し、その基礎を深める段階に入り、H24年度はケルヴィン波のエネルギーやケルヴィン波の非線形相互作用によって誘導される平均流の数学的構造を明らかにした。単純流体でのこれらあり様はわかってきたが、電磁流体(MHD)については、オイラー・ポアンカレ形式に相当するものが掴めないでいる。MHDの波のエネルギーの定義を探っている段階である。 ラグランジュ変数による場の理論によってヘリシティを含む種々の流体のトポロジー不変量のネーターの定理による特徴付けについては、バロクリニック流体のカシミール不変量の解明に申し分ない形で成功した。この結果の、定常流の3次元安定性への応用に進んでいる。3次元という一般的な状況に対して、流れの安定性条件が知られていないのが現状である。 当初、渦輪の運動速度の導出にならってらせん渦管の運動速度の公式を導くことを目指したが、ハードルが高すぎた。そこで、ハードルを下げて、渦対の並進運動速度の導出から着手することに目標を設定し直した。渦度重心の移動速度に対する恒等式を得たのは大きな成果である。渦輪の運動に対しては対応するものがヘルムホルツの論文〈1858〉以来連綿と整備されてきたが、それ以外の渦運動に対するはじめての等式である。適用範囲も広い 。
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今後の研究の推進方策 |
1. 流れの弱非線形安定性に対するオイラー・ラグランジュ混合法を開発を電磁流体(MHD)に拡張して、磁気回転不安定性(MRI)の線形・弱非線形安定性の解明を行う[R. Zou (D2, H25年度)と共同]。単純流体の場合には、ラグランジュ変数を用いることによって、渦なし撹乱を自動的に実現することができるが、MHDの場合、ローレンツ力が渦度を生成するので、単純流体の渦なし撹乱のMHDでの対応物の意味する内容が不透明である。(1) MHDに対応するオイラー・ポアンカレ形式を整備し、それに対してネーターの定理を適用することによって、MHDのカシミール不変量(=トポロジー的不変量)の正体を明らかにする。この結果を踏まえて、(2) カシミール不変量すべて保つ撹乱をラグランジュ変数によって書き下し、MHD流体中の渦に立つ3次元波のエネルギーの公式を導く。負エネルギーをもつ波の存在を明らかにし、MRIをハミルトン力学系の視点から特徴付ける。さらに、(3) 波の非線形相互作用によって誘導される平均流を導く。 2. 高・低レイノルズ数の両極限において、渦対の運動速度の漸近形を導出する。高レイノルズ数においては、渦度分布はナビェ・ストークス方程式に接合漸近展開を適用することによって求められる。渦芯半径と渦中心間の距離の比が小さなパラメータである。低レイノルズ数においては、渦度はストークス方程式を厳密に解くことによって求められる。両方において、初期段階での運動速度の漸近形を導出する。高・低レイノルズ数領域のいずれにおいても、減衰段階においては渦度分布はストークス方程式にしたがい、対応する運動速度の減衰則を導出する。 さらに、渦中心が正多角形の頂点に位置する同符号の渦領域の場合に運動速度の導出を試みる。運動エネルギーが発散する点が渦対の場合と異なる。らせん渦の運動速度の導出はこの先にある。
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次年度の研究費の使用計画 |
必要な専門知識を獲得するため、流体力学関係図書を購入する(物品費)。 最先端の研究情報を直接交換するため、International Conference on Fluxes and Structures in Fluids(6月下旬,St.Petersberg, ロシア) や2nd International Retreat on Vortex Dynamics and Vorticity Aerodynamics(8月中旬, 上海, 中国)など国際研究集会2件に出席する(外国旅費60万円)。九州で動かずにいると情報的に孤立する恐れがある(国内旅費15万円)。また、渦運動や力学系の専門家から専門知識の提供を受ける(国内旅費)。
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