研究課題/領域番号 |
24540407
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
福本 康秀 九州大学, マス・フォア・インダストリ研究所, 教授 (30192727)
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キーワード | トポロジカル積分不変量 / クロスヘリシティ / ネータ―の定理 / 等磁気循環摂動 / 磁気回転不安定性 / 方位磁気回転不安定性 / Hain-Lust方程式 / 三波共鳴 |
研究概要 |
流体力学と電磁流体力学の変分原理による定式化を進めて、作用が有する「粒子ラベル付け替え対称性」に関するネータ―の定理によって、バロトロピー流体から密度成層流体、理想電磁流体にいたるまで、トポロジカル積分不変量がすべて「クロスヘリシティ」として共通の表現形式で統一的に書き表せることを明らかにした。渦のトポロジーを保つ摂動を等循環(isovortical)摂動という。そのMHD版である「等磁気循環(isomagnetovortical)摂動」という概念を利用して、MHD流に立つ波のエネルギー公式の導出に成功した。これによって、磁気回転不安定性をハミルトン力学系の観点から解明を進めることができる。 磁気回転不安定性の短波長安定性解析を非軸対称撹乱が扱えるように拡張した。軸方向磁場のみならず、周方向磁場を扱える。非軸対称撹乱に対しては、従来の扱いでは見落とされがちな項があることに気づき、Frieman-Rotenberg方程式を動径変位に対する方程式に帰着させたにHain-Lust方程式に基づいて解析する方法を開発した。周方向磁場に対して増幅率および固有関数を計算し、ケプラー回転流が不安定であることを示した。 回転流や立つ3次元波をケルヴィン波といい、軸対称性や並進対称性を破る摂動を加えると2個のケルヴィン波が共鳴不安定を起こす。この弱非線形安定性解析を行うと、線形成長がある振幅で抑えられることが示せるが、これは実験とは一致しない。そこで、共鳴を起こしているらせん型ケルヴィン波と3角形、4角形モードとの三波共鳴による不安定性の可能性について調べた。ケルヴィン波のエネルギーに関する知見を利用して、波の全エネルギーがゼロになるよう初期条件を調整すると3波が際限なく成長し続けられることを数値計算によって示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H25年度は、電磁流体のトポロジカル不変量の内容を深め、ネータ―の定理によってすべてクロスヘリシティの形でかけることが証明できた。さらに、単純流体に対するオイラー・ポアンカレ形式に相当する、電磁流体のトポロジー的側面のみを保つ時間発方程式に到達した。この微小振幅版が等磁気循環摂動である。これによって、定常解をエネルギーの極値状態として特徴づけることができる。 電磁流体の力学を回復するためには、等磁気循環摂動に対して、力、運動量、エネルギーという属性を付与しなければならない。特に、流体粒子のラグランジュ変位のおよび電流の時間変化に相当するベクトル場の時間発展を探していたが、これも完全に解決した。これらのベクトル場が決まると、流れのある電磁流体の波のエネルギーが計算でき、波が誘導する平均流が求められるなど、次へのステップが大きく開かれる。
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今後の研究の推進方策 |
1.磁気回転不安定性(MRI)の局所解析を行うため、短波長解析をさらに進める[R. Zou (D3, H26年度)と共同]。方位磁場が誘起する不安定性であるAMRI (Azimuthal MRI)に対して開発した方法を、らせん磁場の場合のHMRI (Helical MRI) に拡張する。実験との比較においては、磁気抵抗率が粘性に比べてずっと大きい場合の「誘導なし極限」の不安定性解析も詳しく行う。 2. 並行して、磁気回転不安定性(MRI)の線形・弱非線形安定性のグローバル解析を行う[R. Zou (D3, H25年度)と共同]。単純流体の渦なし撹乱のMHD対応物が等磁気循環撹乱である。MHDに対応するオイラー・ポアンカレ形式を整備し、MHD流体中の渦に立つ3次元波のエネルギーの公式を導く。負エネルギーをもつ波の存在と役割を明らかにする。 3. 渦対の運動速度の漸近形を導出する。高レイノルズ数においては、渦度分布はナビェ・ストークス方程式に接合漸近展開を適用することによって求められる。渦芯半径と渦中心間の距離の比が小さなパラメータである。粘性流の場合、高レイノルズ数極限において、ガウス型の渦度分布もつ渦対の初期段階での運動速度の漸近形を導出する [Ummu Habibah (D2, H26年度)と共同]。初期渦度分布が任意の渦対の運動速度に対する予想がある。この予想を数学的に証明する。 必要な専門知識を獲得するため、流体力学関係図書を購入する(物品費)。 最先端の研究情報を直接交換するため、Michael Tribelsky博士(モスクワ大学物理学科)を招聘する(5月下旬~6月初旬)。そして、Turbulent Mixing and Beyond Workshop (8月初旬、トリエステ、イタリア)や米国物理学会流体力学部門(11月中旬、サンフランシスコ)に参加して成果を発表し、参加者と情報交換を行う(外国旅費90万円)。九州で動かずにいると情報的に孤立する恐れがある(国内旅費30万円)。
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次年度の研究費の使用計画 |
H25年度は、海外に成果発表や共同研究のための出張を5度行い、国内の学会や研究集会に数多く出席し、研究成果を発信し、また、第一線の研究者との密な情報交換を行うことができた。中国への2度にわたる出張はいずれも先方からの招待扱いとなり、滞在費はすべて先方負担であった。ケンブリッジを中心とする英国への2度にわたる出張は、日本学術振興会の日英共同研究(H24-25年度、代表:福本康秀)の経費によってまかなった。国内出張についても3件ほど先方負担であった。このような事情により、当初、計上していた外国旅費・国内旅費を大きく節約することができた。 次年度使用額として生じた経費については、主として、共同研究者のMichael Tribelsky博士(モスクワ大学物理学科)の招聘に充てる。H26年5月28日ー6月7日の日程で招聘し、密度不連続面をもつ界面の3次元不安定性に対する渦度の効果について、集中的に共同研究を行う。 全体として、以下のような使用計画を立てている。必要な専門知識を獲得するため、流体力学関係図書を購入する(物品費)。最先端の研究情報を直接交換するため、Michael Tribelsky博士を招聘する(5月下旬~6月初旬)。そして、Turbulent Mixing and Beyond Workshop (8月初旬、トリエステ、イタリア)や米国物理学会流体力学部門(11月中旬、サンフランシスコ)に参加して成果を発表し、参加者と情報交換を行う(外国旅費90万円)。九州で動かずにいると情報的に孤立する恐れがある(国内旅費30万円)。
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