研究課題/領域番号 |
24540418
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
研究機関 | 福岡大学 |
研究代表者 |
宮川 賢治 福岡大学, 理学部, 教授 (30037296)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | 自己組織化 / ネットワーク / 非平衡 / 集団ダイナミクス |
研究概要 |
光感受性ルテニウム錯体触媒を約400マイクロメートル径のシリカゲルに組み込み、ベル-ゾフ・ジャボチンスキー(BZ)反応溶液中で自律振動するダイナミックな素子を創製した。BZ溶液組成、錯体濃度を制御変数として、素子の振動性・興奮性について相図を作成した。本素子100個を拡散結合が無視できる間隔で離散的に配列した素子アレイを作製した。高い光感受性を利用して各素子の反応由来の光強度変化をフィードバックすることで、素子間の結合様式を可塑的に変える神経ネットワークのモデル系を構築した。 先ず、振動の位相差が小さい素子対では結合を強め、逆に位相差の大きい素子対では結合を弱めるような可塑的結合をデザインした。フィードバック関数の利得や形に依存して、クラスター状態やカオス状態が現れることを見出した。オレゴネータを基本にした数値シミュレーションでは、クラスタリング係数やオーダーパラメータの時間発展を調べ、実験結果を良く再現することを明らかにした。 更に、結合の対称性を考慮した集団ダイナミクスを明らかにするために、自励振動している各素子に独立なノイズを印加し、素子数Nと制御変数kを様々に変化させて位相の揺らぎを調べた。素子が対称に結合した系(k = 1.0)では、素子数の増加に伴って位相のゆらぎは で小さくなるのに対し、非対称結合系、例えばk= 0.5では、Nの増加につれて一定値に漸近する傾向があることが分かった。このことから、集団のリズムのゆらぎがシステムサイズだけでなく、結合の対称性に大きく依存することが明らかになった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度の研究目的は、おおむね達成できた。結果は以下の様である。 (1) BZ反応の興奮能を内包する光感受性のダイナミック素子を創製し、その基礎特性を明らかにすることができた。 (2) マイクロ加工技術を用いてダイナミック素子アレイを作製することができた。局所結合系では、自励振動のコヒーレンスは素子数の増加に伴って促進される、ノイズによって誘起される発火は素子数の増加に伴って規則的になる、など集団化の効果を明らかにすることができた。 (3) 光感受性を利用したコンピュータ制御フィードバックループを素子アレイに組込み、素子間の状態や外界の変化に応じて結合様式を変え得るネットワークを実現することができた。
|
今後の研究の推進方策 |
(1) ダイナミック素子アレイを作製することに成功したが、構成素子の活性能にバラツキがあり、同時に全ての素子を正常に動作させることは難しいことが分かった。今後、フォトリソグラフィー用のフォトマスクを含めて、作製方法に改良を加えて行く。 (2) 集団のリズムのゆらぎが結合の対称性に大きく依存することが分かったが、更に実験的に詳細を明らかにする。結合の対称性の役割を解析的に調べるために、オレゴネータやBZ反応の振動現象を1自由度に縮約した位相振動子モデルを用いて数値計算を行う。 (3) 多様なフィードバック関数を用いて素子の発火の状態に依存して結合強度が可塑的に変化する状況を実現し、誘起される集団ダイナミクスを明らかにする。オレゴネータをはじめ、BZ反応系の非線形方程式をベースにして、フィードバックを用いて可塑性結合を実現する数理モデルを提案する。 (4) 外部からの時間的・空間的な揺らぎ、即ち、時間軸における確率的性質と素子の特性や空間配置のばらつき、などの導入が、上述の自己組織化現象に及ぼす効果を明らかにする。
|
次年度の研究費の使用計画 |
研究を進めていく過程で必要に応じて研究費を執行したため、24年度の研究費に未使用額が生じたが、研究計画に変更はない。24年度の研究で実験結果の再現性に問題が見つかり、実験装置の改良と合わせて当初予定通りの研究計画を、前年度の研究費も含めて実施する。
|