研究課題/領域番号 |
24540418
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研究機関 | 福岡大学 |
研究代表者 |
宮川 賢治 福岡大学, 理学部, 教授 (30037296)
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キーワード | 自己組織化 / ネットワーク / 非平衡 / 集団ダイナミクス |
研究概要 |
光感受性ルテニウム錯体触媒を約400マイクロメートル径のシリカゲルに組み込み、ベル-ゾフ・ジャボチンスキー反応をベースにした自律振動素子を創製した。前年度に得られた相図をもとに、間隔120マイクロメートル(拡散結合が無視できる間隔)で配列して素子アレイを作製した。高い光感受性を利用して各素子の反応由来の光強度変化をフィードバックすることで、フィードバック関数に応じて素子間の結合様式を変え得る神経ネットワークモデルを構築した。 結合の対称性が集団ダイナミクスに及ぼす効果を明らかにするために、独立にノイズを印加した100個の振動性素子を、フィードバックを用いて直線的に結合した。素子数N と結合の非対称度を表すパラメータsを様々に変化させて各素子の発火のリズムを調べた。対称に結合した系(s = 1.0)では、素子数の増加に伴って発火の時間間隔のゆらぎの偏差値は、Nの平方根の逆数に従って小さくなることが分かった。これは、対称結合系の振動周期の揺らぎは中心極限定理に従うことを意味する。素子数に対する発火の時間間隔の揺らぎの偏差値を両対数プロットすると、s = 1.0の場合には直線になるが、s = 0.8ではNの増加に伴って直線からはずれ、一定値に漸近することが分かった。この傾向はs が小さくなるにつれて顕著になり、s = 0では、偏差値は素子数に全く依存せず一定になることが分かった。 オレゴネータを基本にしてsin型のフィードバック関数を仮定し、数値シミュレーションを行った。その結果、実験を良く再現することが分かった。これらの結果から、集団のリズムのゆらぎはシステムサイズだけでなく、結合の対称性に大きく依存することが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度の研究目的は、おおむね達成できた。結果は以下の様である。 (1) BZ反応をベースにして自励振動性を内包する素子を作製した。コンピュータ制御フィードバックを用いて素子の発火の状態に依存して結合強度が可塑的に変化する状況を実現するために、最適アルゴリズムを探求した。 (2) 振動素子ネットワークでは、固定結合では観測されないクラスタリング現象を観測し、その性質の詳細を明らかにした。更に、結果を数値シミュレーションによって再現した。 (3) 興奮性素子ネットワークでは、素子の興奮能に大きなバラツキがあり、同時に全ての素子を正常に動作させることは困難であった。非周期的な時間的変調を重畳したフィードバックによる駆動場の数値シミュレーションでは、コヒーレンス共鳴が可塑的結合によって固定結合に比べて高められることを明らかにした。 (4) 結合の対称性が集団ダイナミクスに大きな効果を及ぼすことは、前年度の研究でその概略は明らかになった。今年度は詳細を実験的に明らかにし、更に、結合の対称性の役割を解析的に調べるために、オレゴネータを1自由度に縮約した位相振動子モデルを構築した。
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今後の研究の推進方策 |
(1) 素子の発火の状態に依存して結合様式が変わる可塑的結合を、多様なフィードバック関数を用いて実現を試みる。 (2) 神経細胞ネットワークが持っている特徴の1つに不均一性がある。この性質を本研究の可塑性結合ネットワークに反映させるために、発火周期に不均一性を導入し、この不均一性が自己組織化現象にもたらす効果、コヒーレンスを高めるのに最適な不均一性の度合い、などを明らかにする。興奮性の離散系反応場を用いた実験が困難な場合は、数値シミュレーションを用いて上述の自己組織化現象に及ぼす効果を明らかにする。 (3) マイクロエマルションをベースにした離散型BZ反応場を用いて、新奇な集団ダイナミクスを探求する。BZ反応触媒としてフェロイン錯体と高い光感受性を持つルテニウム錯体を共存させ、チューリング不安定性によって誘起される自己組織化パターンの出現のダイナミクスに注目する。2種の錯体の濃度比をパラメータにしてパターンの制御を行う。更に、外部からの光刺激によるパターンのダイナミクスにも着目する。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究を進めていく上で必要に応じて研究費を執行したため、当初の見込み額に対して少額ではあるが未使用額が生じた。 研究計画に変更はなく、前年度の研究費も含めて当初の予定通りの研究計画を実施する。
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