研究課題/領域番号 |
24540420
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研究機関 | 独立行政法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
三宅 隆 独立行政法人産業技術総合研究所, ナノシステム研究部門, 主任研究員 (30332638)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 第一原理計算 / スピン軌道相互作用 / 密度汎関数法 |
研究実績の概要 |
昨年度着手したテルル及びセレン結晶の電子構造の第一原理計算の研究を推進した。結晶構造は、3回らせん軸からなる一次元鎖が六方晶に配列したものとみなすことができる。電子構造計算には、密度汎関数法の局所密度近似(LDA)にGW近似による自己エネルギー補正を加えた。スピン軌道相互作用を無視した場合、フェルミ準位近傍に複数のディラック点が存在する。圧力下で半導体から金属に転移するが、金属相においてディラック分散があらわれる。このディラック分散をグラフェンと比較し、類似性と違いを調べた。違いとしては、テルル、セレンは単位胞に3原子存在するのに対し、グラフェンは2原子からなる。これに対応してテルル、セレンのディラック分散では(スピン縮退以外に)3つの状態がブリルアンゾーンの1点で交差してディラック点を形成するが、グラフェンでは2本の状態がディラック点を形成する。類似性としては、両方の系で飛び移り積分の干渉効果が存在する。グラフェンでは、一つのA副格子点に注目すると、最近接に3つのB副格子点が存在する。この3つの副格子点への飛び移り積分の値は同じで、K点において、それらのホッピング間に干渉がおこり、ギャップがとじる。一方、テルル、セレンでは一つの原子の近傍に一次元鎖内と鎖間のホッピングが存在する。常圧では鎖内と鎖間の飛び移り積分の値は異なるが、圧力下で鎖間の飛び移り積分が増加し、ある圧力で等価になる。このときにホッピングの干渉効果としてディラック点が形成されると考えられる。スピン軌道相互作用を考慮すると、金属化する転移圧力が減少することもわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度着手したテルル、およびセレン結晶のスピン軌道相互作用効果を第一原理計算を用いて調べた。この方針にしたがい、おおむね順調に推進している。
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今後の研究の推進方策 |
応募時には対象物質を明示せず、研究の進展に応じて適宜選択する計画であった。昨年度着手したテルルおよびセレン結晶は、空間反転対称性の破れた系で、スピン軌道相互作用に起因した物性が興味深い。研究コミュニティで認知されつつある。今後は、スピン軌道相互作用の第一原理計算という基本方針のもとで、テルル、およびセレンのトポロジカル物性を中心に研究を推進していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
テルル、およびセレンの計算を中心に行ったが、当初の予定よりも計算規模が小さかったため、支出が小さくなった。
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次年度使用額の使用計画 |
スピン軌道相互作用に関する議論ためにフランス、およびスウェーデンへ海外出張する。
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