研究課題/領域番号 |
24540426
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
吉川 豊 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (00345076)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | 量子エレクトロニクス / ボース・アインシュタイン凝縮 / 光格子 |
研究概要 |
近年レーザー冷却技術の目覚ましい発展により、希薄気体におけるボース凝縮やフェルミ縮退などの巨視的な量子現象が比較的容易に観測できるようになった。さらに最近では、この様な極低温原子に対して3次元的な光の定在波を加え、原子を定在波の腹の部分に周期的に捕獲する光格子と呼ばれる技術が注目を集めている。本研究の目的は、量子縮退した冷却イッテルビウム原子を3次元光格子に閉じ込め、光磁気共鳴イメージングと呼ばれる手法を用いて光格子各点の原子に個別にアドレッシングし、その量子状態をコヒーレントに制御する技術を開発すること、さらに超高分解能の結像系を構築し、格子点の個々の原子を直接観測する量子気体顕微鏡を作製することにあった。 平成24年度は、アドレッシング用の波長507nmのレーザー光源の周波数制御精度を向上させ、1時間程度の実験時間内の周波数ドリフトを1kHz程度に抑えて再現性よく実験可能な光学系を構築した。さらに安定した磁場勾配を得るために高安定な電流源を準備し、さらにフィードバックによる安定化を用いて駆動電流を安定化させる磁場制御システムを開発した。その後3次元光格子に捕獲した174YbのMott絶縁体に対して1P1-3P2間遷移を用いて高分解能分光及びアドレッシング実験を行った。この結果、Mott状態転移に伴うスペクトルの変化を精度よく観測することに成功した。さらに266nmという非常に高い空間分解能で3次元光格子中の各層を個別に励起できることを確認した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当研究予定は大きく分けて、①光磁気共鳴イメージングによる単一サイト分解能での原子の内部状態操作、②原子を光格子中の各サイトを分解して観測するための量子気体顕微鏡の構築2つのステップに分けることができる。 平成24年度においては、①の実験に成功したため、残りの2年間で②を残すのみとなる。つまり研究予定の1/2を1年で実施できたと考えられ、研究の実施ペースとしては悪くないと考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
今後の優先事項は、光格子中の単一サイト分解能を有する量子気体顕微鏡をイッテルビウム原子系で実現することである。量子気体顕微鏡はこれまでルビジウム原子において成功例があるのみで、本研究で使用するイッテルビウムでの前例はない。そのため十分深い光格子ポテンシャルを作ることができるかどうか、さらに原子の加熱を抑えて観測に十分な蛍光強度が得られるかどうか、慎重に確かめながら実験を進める必要がある。顕微鏡の構成については、3mm程度の厚さを持つ真空ガラスセルを通しても波長程度の分解能を確保できるよう、専用に設計した対物レンズを使用する。事前の性能テストでは700nm程度の位置分解能を得ており光格子の蛍光顕微鏡として十分使用に耐える性能であることは確認済みである。これを光格子系に組み込むには振動などの外部ノイズを低減するため、光格子レーザーと同一のボード上に設置する必要がある。これらのボードや支柱、光学素子の配置などはあらかじめ3D-CADを用いて細かくシミュレーションし、多数のレーザー光の光学系と顕微鏡を十分安定に設置できるよう検討する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度は、量子気体顕微鏡を実現するための光学素子(光学ミラーやフィルタなど)及びそれらを定盤上に固定するための光学マウント等の消耗品に研究費のほとんどを使用する予定である。残りは、年2回の日本物理学会で成果報告を行うための出張費としての支出を予定している。
|