研究課題/領域番号 |
24540428
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
飯沼 昌隆 広島大学, 先端物質科学研究科, 助教 (00294512)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | 量子測定 / 弱測定 / 弱値 / 光子対 / 結合確率 |
研究概要 |
今年度は、以下の3点、もつれ合い光子対発生源の構築、弱測定装置の改良と弱値の虚部の測定、複素確率の測定を目標に研究を行ってきた。 もつれあい光子対発生源の構築では、その前段階である光子対発生とその検出に成功し、1500/secのカウント数を得た。最初の段階では十分な数値でありこの段階でも使えないことはないが、まだまだカウント数改善の余地が残っていることは明白である。次年度の段階ではまだもつれ合い状態の必要性はないため、カウント数1桁以上向上を目標に改善を進める予定である。 一方弱測定装置の改良も行ったものの装置が安定しなかったため、装置の不安定性の原因追究と偏光測定での系統的な誤差の原因追究、およびそれらの改善方法の模索を中心に研究を行った。その結果不安定性の主な要因は、干渉計が二つの光学素子、ビームスプリッターと偏光ビームスプリッターを独立にマウントしていることが原因であることが分かった。さらにこれらの反射面を高精度に揃えることによって、不安定性が改善されることも見出した。また系統的偏光測定の結果から、ビームスプリッターの光学特性が偏光測定の系統誤差に大きく影響することも判明した。この改善策としてビームスプリッターの不完全性を排除できるデータ解析の方法を見出した。 今年度後半に、特注品であるビームスプリッターと偏光ビームスプリッターが一つの素子になったハイブリッド光学素子が安価に手に入ることが判明したために、前倒し請求により購入することを決めた。この素子を使えば格段に安定性は向上するとともに、申請者が見出した解析方法を利用することによってビームスプリッターの不完全な光学特性の影響がほぼ排除できるために、理想に近い偏光測定実験が可能になる。次年度では実際の装置の改善と解析方法を確立するところから開始する予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究目的達成までを10とすると今年度の目標4に対して、現時点ではやや遅れ気味で3程度であると言える。予定どおり達成した項目は光子対発生源の構築で、現時点で最大1500/secのカウント数を得た。まだ初期の段階で不十分であるものの、現時点では次年度につながる成果である。 その一方で弱測定装置の改良が思った以上に進まなかった。その原因は、装置の安定性向上と偏光測定の系統的誤差の改善が相反するものと考えていた点にある。安定性向上には二つの光学素子、ビームスプリッターと偏光ビームスプリッターが一つの素子になったハイブリッド素子を用いるのが最善の解決策である。その一方で系統誤差を改善する最善の方法が、光学特性の良いビームスプリッターを用いることである。ハイブリッド素子は完全なビームスプリッターではないために、光学特性が理想からかなりずれる可能性が高い。素子も特注品になり一般に高額となってしまう。そのため、なるべく光学特性の良い二つの独立した光学素子による装置を構築し、装置の安定性を向上させようと実験的に模索した。ところが結果的にこの模索にかなり時間を割いてしまった。それが最大の遅れの理由である。しかしその一方で、模索によって実験ノウハウ上さまざまなことが判明した。また今年度の後半であるが、ハイブリッド光学素子が安価に入手可能であることが分かり、さらにデータ解析の方法によってビームスプリッターの不完全な光学特性の影響がほぼ排除できることも判明した。実験的模索によって研究全体に遅れが生じたものの、実験ノウハウを得たことは実験遂行上非常に重要な成果であり、確実に次年度につながる成果である。
|
今後の研究の推進方策 |
今後の方針としては、まずは今年度の結果を踏まえ、弱測定装置の安定性の改善とビームスプリッターの不完全な光学特性を排除した測定結果を得ることを試みる。これが達成できれば現時点での実験的困難さはほぼ解決されるため、弱値の虚部の測定、連続測定による結合確率の位相因子の測定をただちに始めることができる。連続測定を行い測定の影響を排除することによって、量子論に頼らずに測定前の複素結合確率分布を得ることを目指す。この結果は量子論とは独立に求めた結果となるため、ユニタリー変換による量子論の予測と直接比較することが可能となる。上記の実験と並行して光子対発生装置の改善を行い、カウント数向上を実現する。これらの実験に今年一杯には目途をつけ、来年1月からは光子対発生装置と偏光測定装置を組み合わせて、光子対を用いた文脈依存性の実験を始めたいと考えている。 文脈依存性の実験の結果を得た後、その実験ノウハウを踏まえて、非局所量子相関での途中段階の測定を行う予定である。このときは光子対にもつれ合い状態が必要となるため、光子対発生装置をさらに改良させる。なおこの改良と実験は次々年度に予定している。
|
次年度の研究費の使用計画 |
次年度の前半での実験は、今年度の後半に購入した消耗品でほぼまかなえるため、改良に必要な光学部品を若干購入するだけで良い。その光学部品に25万円を充てる予定である。また次年度後半の文脈依存性の実験に単一光子検出器(エクセリタステクノロジー社製 SPCM-AQR-14-FC)がもう一台必要となるため、設備備品として110万円で購入する予定である。使用は次年度後半に予定しているが、次年度前半には購入の予定である。残り金額のうち5万円を旅費、10万円を出版費を含めたその他の費用に充てる予定である。
|