研究課題/領域番号 |
24540432
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
田中 良巳 横浜国立大学, 環境情報研究院, 准教授 (10315830)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | mechano-chemical / fracture / gel |
研究概要 |
2012年度は、本研究課題の遂行に適した実験系(駆動・計測・観察系)の基礎的な部分を構築し、アクリルアミドゲルを主たる対象として研究を行った。具体的には、化学合成したアクリルアミドゲルの亀裂先端に、アクリルアミドに対する良溶媒である水、および貧溶媒であるアセトンやエタノールを添加した場合に、破壊挙動にどのような影響が生じるかを調べた。その結果、亀裂先端に水を添加した場合、空気中の破壊に比べ破壊エネルギーが低下することが見出された。一方、貧溶媒であるアセトン、エタノールを亀裂に添加した場合、振動的(スティック-スリップ的)な亀裂進展モードが生じるとともに、(振動周期にわたって平均化した)破壊エネルギーが上昇することが見いだされた。また、貧溶媒と水の混合溶媒を添加した場合、その混合比率に応じて破壊挙動が急激に変化すること、その変化は平衡膨潤に関して急激な収縮が起こる混合比で生じることが実験的に明らかになった。 上記の結果は、化学ゲルの代表的な例であるアクリルアミドに関して、溶媒環境が破壊挙動に与える影響の典型的な例だと位置づけることができる。特に貧溶媒の添加によって定常的な亀裂進展が不安定化するという効果は、これまでの関連研究では報告されておらず新規性が高い。その背景には、亀裂進展による新たな表面形成と溶媒浸透による硬化したスキン層の形成の競合という機構が働いていると考えられ今後の理論的研究の課題が見いだされたと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画当初は大型の力学試験機を改造して使用する予定だったが溶媒添加の必要性や荷重容量、あるいは多様な試料装着方法を試みる必要性などの理由で専用の試験機を自作することにした。2012年度において研究の目的に適合した実験系の基礎的な部分が構築でき、その自作装置を用いて化学ゲルの代表的な例であるアクリルアミドゲルの破壊挙動に対する溶媒効果の明確な例を良溶媒と貧溶媒それぞれについて見出せた。この意味で初年度の研究として順調に進んでいると考えられる。 平成24年度に着手する予定であった破壊挙動の実画像解析については予備的な検討の結果、種々の技術的困難さが判明し実質的な進展はなく、予定との残額が生じる原因となった。
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今後の研究の推進方策 |
実験面では、これまでの化学ゲルだけでなく、種々の物理ゲルを実験対象として採用し、溶媒の質(貧または良)以外にイオン濃度やpHなど物理ゲルの構造に強い影響を与える因子に注目して基礎的な実験データを蓄積する。溶液添加(補充)の自動化、および力学計測のデータと亀裂進展挙動の画像データの同期などの面での実験装置の改良を行う。またこれまで注目していなかった「ゲル破壊における溶媒効果」の別側面として、固体高分子(ポリプロピレンなど)が溶媒で膨潤してできた有機ゲルの破壊や、あるいは固体高分子の亀裂に溶媒を注入し亀裂の先端においてゴム化・ゲル化が起こりつつ破壊する場合の振る舞いを研究する予定である。 上述の実験研究と平行して2012年度に見いだされた効果に関して、理論家との共同研究も視野に入れながら数値的・理論的な解析を進めていく。特に貧溶媒添加による振動的亀裂進展の発生に関して非線形ダイナミクスの観点からの解析を行う。特にこの目的のため専用のソフト・システムを購入し力学データと破壊挙動の記録画像の同期をとる予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
合成高分子ゲルの作成に必要なアクリルアミドのモノマー試薬や溶媒群、あるいは種々のポリマーを購入する。ゼラチン、ジェランガム、ザンタンなどに生体高分子の試薬の購入を行う。また実験装置の改良(溶液添加の自動化、および力学計測のデータと亀裂進展挙動の画像データの同期)のための部品購入を行う。 H24年度の残差分に関しては、力計測のデータと破壊挙動の記録画像の同期をとるためのシステム導入に充てる予定である。
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