研究課題/領域番号 |
24540433
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
荒木 武昭 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (20332596)
|
研究分担者 |
小貫 明 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 名誉教授 (90112284)
|
キーワード | ネマチック液晶 / 多孔質 / トポロジカル欠陥 / タンブリング / マイクロフルイディクス / 非線形流動 / 輸送現象 / Landau-de Gennesモデル |
研究概要 |
H24年度の格子ボルツマン法を用いた研究により、多孔質中をネマチック液晶が流れるとき、壁のアンカリング強度が有限ならば、多孔質表面におけるダイレクタのアンカリングが過渡的に壊れ、そこから液晶欠陥が生じることが分かった。H25年度はこの現象の物理的機構を深く理解すべく、より簡単な系として様々なアンカリング強度を持つ平板スリットを考え、その中を流れるネマチック液晶の流動挙動を調べた。液晶秩序化と弾性を記述する自由エネルギーにアンカリングの効果を導入し流れ場とダイレクタの回転の運動を流体方程式を用いて計算した。バルク中では、ダイレクタが回転(タンブリング)するようなパラメータ領域を考える。 まず、ポアズイユ流の場合を調べた。流れが十分に遅いとき、アンカリング強度が小さくても、液晶の弾性場によりダイレクタは固定されている。アンカリング強度が小さければ、流れを次第に早くしていくと、壁付近のダイレクタが先に回転することが分かった。アンカリング強度を変化させると、タンブリングが起こるエリクセン数の閾値が変化する。アンカリング強度が十分に強い場合には、壁付近のダイレクタは固定されるが、壁から離れたある距離付近のダイレクタが不安定になり、そこからタンブリングが始まることが分かった。しかしながら、流れがある流速より遅ければ、そのタンブリング運動は、有限の時間の後、止まってしまうことも分かった。これは、回転運動によって蓄えられた弾性エネルギーが大きく増大し、回転運動を妨げたためである。回転運動を続けさせるためには、さらに早い流れを与えなければならず、これはネマチック液晶が局所的に融けることに起因するものであることも分かった。 一方、クエット流の場合、アンカリングが小さければ、常に回転は起こりうることが分かった。アンカリング強度を上げていくと、壁付近のダイレクタは固定され、回転運動は起こらなくなる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、多孔質中の液晶の流動特性を調べる手法の開発に成功し、その振る舞いを調べることができている。また、その中で新たに問題となった、アンカリングが弱い場合に、多孔質表面に拘束された配向場が動的な流動場下においてどのように振る舞いかという点についても、有用な知見を得ることができた。 また、この概念はコロイド粒子を分散させた液晶のレオロジーの問題についても適用できており、昨年に引き続き研究を続けている。 以上から、研究はおおむね順調に進展していると考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
当初の計画通り、この二年間で開発した手法を用いて、多孔質中の液晶の非平衡・非線形流動特性を詳細に調べたい。特に多孔質に束縛されたトポロジカル欠陥の役割について明らかにしたい。 また、配向場の動的な振る舞い、液晶・コロイド分散系のレオロジーの問題についての研究も行う。
|
次年度の研究費の使用計画 |
数値計算を行うための計算機を購入する予定だったが、H25年度は主に解析的手法による研究に重点を置くことになり、計算機資源に余裕が生じたため。 今年度は、昨年度までの解析結果を発展させ、非線形効果を取り入れた数値計算に取り組めるよう、当初予定していたより高性能の計算機の購入に充てたい。
|