本研究のテーマであるガラス転移現象は、ガラスの軟化および硬化の状態変化のことであり、極めて身近な現象でありながら、高度に発展した現在の物理学においてもその原子レベルの機構がほとんど解明されていない難問として知られている。一方、いわゆる複雑系とガラス転移との類似性が認識されつつあり、複雑系共通の特異性の研究という色彩が強くなってきている。 本研究では、報告者が開発した温度変調非線形誘電測定法を用いて、ガラス転移を特徴づけるパラメーターである緩和時間について、独自の方向から研究を行ってきた。ガラス転移は、緩和時間が温度変化に対して急激にしかし連続的に変化することが特徴であるが、本研究では、温度を階段的に変化させたときに①緩和時間が遅れなしに変化するか否か、②遅れるならば殿程度の時間遅れるか、また③遅れの時間の温度依存性はどのようになっているかを一貫したテーマとしている。緩和時間は物質のダイナミクスを特徴づけるパラメーターであるかあ、本研究はダイナミクスそのものの緩和を調べることに相当する。 本研究を開始したときは、温度変調周波数を変化させる測定を行い、上記①②③について、概要を明らかにしたが、温度変調周波数は1桁以下の範囲でしか変えられないために、測定としては不十分であった。平成27年度の研究で、温度変調周波数は一定として電場周波数を変化させる新たな実験法を確立し、電場周波数で3桁をカバーする測定に成功した。これにより、「緩和時間の緩和」には、通常の力学あるいは誘電緩和と同様な、瞬間応答成分が含まれることを見出した。これは「緩和時間の緩和」の動的モデルを考える上で有用な成果であると考えている。本研究の期間内で、モデルの構築まで完成することはできなかったが、今後の科学研究費補助金にも応募し、明らかにしたいと考えている。
|