紫外線領域で火山ガス中のSO2検出用に開発したカメラと同様の技術を用いて,赤外線領域で火山ガス中のH2Oを検出する実験を行った.透明容器に入れた液体水を用いた室内の実験では,明瞭な赤外線の吸収を検出できるものの,野外で実際の火山噴気を撮影した場合には,透過光の吸収を有意に検出することはできなかった.これは,噴気の反射や散乱の影響が大きいことと,背景大気中にも多量に水蒸気が存在するため,噴気の影響だけを抽出することが極めて難しいためであると考えられる.背景大気の水蒸気量が少ない環境(標高の高い火山や乾燥地域の火山)であれば,こうした手法によっても水蒸気の検出ができる可能性はあるものの,多湿な我が国の火山では,噴気水蒸気が凝結して不透明となっていることが多く,赤外吸収による可視化は困難であるとの結論に至った. 分光技術を利用して噴気水蒸気を隔測する別の方法として,過去の研究にて開発した小型ラマンライダーの利用についても引き続き本研究で追究した.これまで,ラマンライダーを用いて噴気中の水蒸気と,それが凝結した水滴(液相の水)の両方を独立に検出することを目指して野外実験を繰り返してきた.2012年に群馬県草津温泉の万代鉱噴気にて,噴気の直接採取とラマンライダーによる隔測を同時に行っていたので,そのデータを用いて水滴チャンネル信号の校正方法を再検討した.その結果,草津万代鉱の噴気では,水蒸気/水滴の重量比として約10~20という値を得た.これにより,白色の噴気でも,含まれているH2Oの大半は水蒸気であることが示唆された.ただし,万代鉱の噴気は,煙突下部で周辺大気と強制的に混合しているため,蒸気相は不飽和である可能性が高く,天然の火山噴気とは状況が異なる可能性もある.このため,将来的には,天然の霧をラマンライダーで測定するなど,別の方法でも水滴チャンネルの校正係数を検証すべきである.
|