研究課題/領域番号 |
24540448
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
佐藤 春夫 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 名誉教授 (80225987)
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研究分担者 |
西村 太志 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (40222187)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 地震 / 波動 / 不均質 / 散乱 / リソスフェア / 火山 |
研究概要 |
固体地球の不均質構造の解明はテクトニクス的形成史を考える上からも重要である.地震波の波長と不均質の尺度が同程度の場合には散乱の効果が大きく,特に短周期の観測波形にはコーダ波の励起が著しく,直達波のエンベロープの見かけ継続時間は震源継続時間よりも長くなる.これらの現象は,短波長のランダム不均質構造が層構造の上に重畳していることを強く示唆する.本研究の目的は,短周期地震波動伝播の数理論を構築することであり,それに基づいて地震観測データを解析し固体地球のランダム不均質構造を明らかにする.一方,位相情報に着目した不均質構造推定法としてノイズ相互相関関数に基づくグリーン関数導出法があるが,本研究では散乱形式による定式化を行い,その数理的基礎を確立する. 初年度は,2つの問題に取り組んだ.短周期地震波に対する散乱源がクラスター的であることから,数理的にはフラクタル的な散乱体の空間分布を考え,その中での波動エネルギーの散乱伝播過程の数理的記述の構築を達成した.具体的には,輻射伝達方程式という積分方程式で記述することが可能である.ここに提唱したフラクタルモデルによれば,直達波の振幅の距離減衰もコーダ波振幅の時間減衰も共に冪乗則に従うことが導かれる.もう一つの研究として,2観測点と散乱体をとり囲む大きな半径の円環上にランダムノイズ源が分布する場合,相互相関関数から2点間のグリーン関数を求めることが出来ることを,エネルギー保存則に基づいて証明した.これらの研究成果を共著を含めて5編の論文として国際学術誌に発表し,さらに1編の論文が査読中である.また,本研究の基礎となる地震波動の散乱に関する書籍を共同執筆し,Springer社より刊行した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の目的とした研究は当初予定以上に進行しており,共著を含めて5編の論文を国際学術誌に発表し,さらに1編の論文を投稿し査読中である.また,本研究の基礎となる地震波動の散乱に関する書籍を共同執筆し,Springer社より刊行した. ノイズの相互相関関数からグリーン関数を求めることが可能であることとエネルギー保存則とが等価であることを示す論文(Sato, 2013)は,学術誌 Geophys. J. Int.に掲載された.これに関連した三宅火山における地震波速度変化の研究(Titi et al. 2012),波動相関の室内実験に関する研究(Mikesell etal. 2012)も,それぞれ学術雑誌に掲載された.地震波伝播に関するフラクタルモデルの研究は学術誌へ投稿中であり,関連した不近質構造における波動エンベロープに関する研究(Emoto et al. 2013)も学術雑誌に掲載された. また,モスクワで開催された欧州地震学会において,研究代表者は地震波動に関するセッションをコンビーナーとして開催した.これらの研究成果を,デルフト大(蘭),グルノーブル大(仏),そしてノイシュタット(独)で開催されたワークショップにおいて発表したが,高く評価され好評であった.
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今後の研究の推進方策 |
ランダム不均質構造における短周期地震波の伝播に関する研究として構築した輻射伝達理論に基づくフラクタルモデルは,モデルを規定するパラメータ数が多い.理論の枠組みはほぼ仕上がったが,さらに実用的なモデルへと発展させるために,数値シミュレーションの高度化に取り組む.同時に,モンテカルロ法によるシミュレーションコードの作成にも取り組む予定である.平行して,火山地帯における不均質構造の数理表現の多様化の可能性を考察することも重要であり,火山研究者との研究交流を活性化する. ノイズの相互相関関数からグリーン関数を求める研究分野では,特に内部減衰が存在する環境でランダムノイズ源が空間的に広く分布する場合,グリーン関数を波動場の相互相関関数から求める方法についての数理的考察を深め,その適用範囲を明らかにして行く予定である.特にフランス・ドイツ・米国の研究者と意見交換を行い,数理的研究の深化を図る計画である.
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額は,今年度の研究を効率的に推進したことに伴い発生した未使用額を平成25年度請求額とあわせたもので,平成25年度の研究遂行に使用する予定である. 主に,数値およびモンテカルロ法によるシミュレーションの実行のため,老朽化した計算機とプリンタの更新費用に充てる. また,共同研究ならびに意見交換の為の旅費に充てる. 4月には,フランス・コルシカで開催される “Ambient noise Imaging and Monitoring”と題するワークショップに参加し,研究発表およびフランス・米国の研究者らと意見交換を行うと共に院生・若手PDを対象とした講義を行う. 8月には,ロシアのカムチャッカの火山研究所にGusev教授を訪問し,火山地帯における地震波動伝播に関する共同研究を行うと共に,ロシアの火山研究の若手の夏の学校で地震波動の講義を行う.12月には,米国サンフランシスコで開催される米国地球物理学連合学会へ参加し,研究発表を行う.
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