研究課題/領域番号 |
24540449
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
中原 恒 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (20302078)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 地震波速度変化 / 年周変化 / 地震 / スロースリップ |
研究概要 |
常時微動やコーダ波を用いた地震波干渉法により,地下の地震波速度の時間変化の検出を行った.まずは2011年東北地方太平洋沖地震について,本震前後に発生した小・中地震に対して,防災科学技術研究所のKiK-net,K-NETの地表観測点で記録されたコーダ波の自己相関関数を計算し,東日本の太平洋側一円で浅部地盤の地震波速度が,本震に伴って最大50%近く低下したことを発見した.KiK-netデータについては,地表と地中の記録のデコンボリューションを用いて,同様に時間変化を計算した.両者の比較により,自己相関関数は地下数10mまでの地震波速度変化に大きく影響されているものと考えられた.この手法による結果のばらつきは5%程度と大きいが,地表の観測点のみのデータに対して利用できるという大きな利点をもつ. 次に,2000年東海スロースリップに伴う変化の検出を目指して,防災科学技術研究所の高感度地震観測網(Hi-net)のうち東海地方のデータ解析に着手した.現在のところ,2003年から2010年までの期間で,脈動帯域において観測点間の相互相関を計算したが,スロースリップに伴う変化は明瞭には観測できていない.一方で,最大で0.5%程度に達する年周変化成分を検出した.この原因については引き続き検討を進めていく必要がある. 理論的研究としては,地震波干渉法と類似している空間自己相関関数(SPAC)法について,減衰性媒質における定式化に成功した.その結果,従来の研究により提案されていた規格化クロススペクトルの実験式を理論的に導出する方法を明らかにした.これにより,この実験式は厳密ではないものの,減衰が十分小さく,観測点間距離に比べて波長が十分短い場合に,近似的に成り立つことが分かった.地震波干渉法により,地震波減衰構造を推定するための理論的基礎を与えた点に意義がある.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では,常時微動の相互相関関数や自己相関関数を計算し,観測点間のグリーン関数を抽出し,その走時変化を計算することで,地震波速度変化を検出する.そして,地震や火山噴火に伴うステップ関数的な変化に加えて,年周変化成分,トレンド成分などの分離を行い,そのメカニズムについて検討することを目的とする.平成24年度は,主に2011年東北地方太平洋沖地震に伴う地震波速度変化の検出を行ったが,東日本の広範囲の地域の解析が必要であったため,予定より少し時間がかかってしまった.そのため,東海地方のスロースリップの解析については,着手して予備的結果が出始めたところである. 一方,地震波干渉法の理論的考察について,本研究では明確な計画を立てていなかったが,従来の地震波減衰構造の推定方法に理論的基礎を与える重要な結果が得られた.
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今後の研究の推進方策 |
東海地方のデータ解析を着実に進め,計画どおり研究を進めていく予定である.地震波速度の年周変化成分については,当初気象観測データとの比較を考えていたが,それに加えて,地下水位のデータも有用であると考えられるため,その収集についても検討する.また,この分野の研究は,現在世界各地で活発に行われているため,日本だけでなく海外での研究の状況にも目を配り,必要であれば積極的に国外に赴き,情報収集を行うことも考えている.
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次年度の研究費の使用計画 |
データ解析の進捗状況が計画よりやや遅れており,その分データ保存用のハードディスクの購入も遅れたため,次年度への繰り越し金額が増えてしまった. 次年度は,そのハードディスクを購入し,データと解析結果の保存のために使用する.消耗品として,アメダス年報のCD-ROMを過去10年分購入し,その中に含まれるアメダス観測点での気温,降水量,積雪の深さの情報と,得られた地震波速度変化とを比較検討する. 旅費は,データ収集と成果発表ならびに情報収集に伴うものである. データ収集は,防災科学技術研究所に依頼する.ハードディスクの受け取りは,データの安全性確保のため,筑波にある同所まで出張する.海外出張として,12月にサンフランシスコで開催されるアメリカ地球物理学連合の秋季大会で成果発表と情報収集を行う予定である.さらに,気象要素の影響が大きく現れることが予想される南極での観測データを利用して近年研究を進めている韓国(韓国極地研究所)での情報収集も予定している.さらに,謝金により,地震観測データの整理を大学院生に依頼する.毎週2時間程度の作業を考えている.また国際学術誌に成果を発表するために論文投稿料を計上する.
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