研究課題/領域番号 |
24540461
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 独立行政法人国立科学博物館 |
研究代表者 |
大迫 正弘 独立行政法人国立科学博物館, その他部局等, 名誉研究員 (60132693)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 地球深部物質 / 熱伝導率 / 熱拡散率 / 比熱 / 高圧力 / 川井型装置 |
研究概要 |
本研究は、地球内部のダイナミクスの研究に寄与するため、地球のマントルを構成する主要物質の熱物性をマントル内部に相当する温度圧力条件下で求めようとするもので、円盤形状の試料をパルス加熱する方法により熱拡散率と熱伝導率を同時測定し、さらにこの両者から比熱を求めることも目ざしている。 初年度においては、上部マントルから遷移層にかけての15 GPaを超える圧力条件で測定できるようにするため、これまで用いてきた試料アセンブリーの小型化の試験を兼ねて実験を行った。川井型高圧力発生装置に組み込むアンビル先端の切り落としを8 mmとし、8面体の圧力媒体の大きさは一辺14 mm、試料の大きさは直径3 mm、厚さ0.7 mmにとった。試料全体を加熱する発熱体には金属箔(ニクロム)に代えてLaCrO3またはTiB2を試験的に用いた。 この試料セルにより、カンラン石・ザクロ石と並んでマントルの主要構成物質である輝石の測定にとりかかり、地殻下部から沈み込み帯中深部で重要と考えられるオンファス輝石について結果を得た。オンファス輝石の熱伝導率(熱拡散率)は高圧においてもその両端成分の透輝石とヒスイ輝石の55-60 %と低い値であった。このことは、沈み込むスラブにおいてオンファス輝石とやはり熱伝導率の低いザクロ石とからなる(エクロジャイト様の)層がカンラン石を主とする周りの部分にたいして熱絶縁層の働きをする可能性を示している。さらに、それより浅いところでは熱伝導率の低いジャモン石層が同じく熱絶縁層を形成し、これらがつながって沈み込みの振る舞いに何らかの作用を及ぼしていることも考えられる。 なお、オンファス輝石の試料には合成した焼結体を用いた。また、透輝石も焼結体で測定した。ヒスイ輝石の測定は天然物を用いたものであるが、結果をとりまとめるにあたり人工焼結体での再測定が必要になるかもしれない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
高圧力のもとで熱拡散率・熱伝導率、あわせて比熱を測定する本方法は、 比較的小さい試料(直径4 mm、厚さ1 mm)でもって10 GPaまでのところが確立していたが、さらに高い圧力を目ざして試料を小型化して(直径3 mm、厚さ0.7 mm)ほぼ安定して測定ができることとなった。試料が小さくできれば、今まで困難とみられていた輝石の測定も可能となる。今年度の成果として、天然物を用いる代わりに合成焼結体でもって測定(オンファス輝石・透輝石)したことがあげられる。このことはこの遷移層から下部マントルの物質についての測定に多結晶体を適用する道筋をつけたことになる。測定結果については、先の蛇紋石に続いてマントル内でのオンファス輝の熱伝導率が周囲より相対的に小さいということが明らかになり、沈み込むスラブにおいてかなりの深さの範囲にわたり熱の伝わりにくい層が現れ、これがスラブの熱的力学的状態を不安定にするという予測があげられる。このオンファス輝石や透輝石の測定にたいしては、主に実験を進めた中国地質大学の研究者が関心を示していたところであり、本成果もその研究者の協力によりできたものである。ひきつづいてさらにマントルの深いところに存在するメジャライトの測定も同じ研究者らの協力により行える見込みがあり、申請者本人が予定しているカンラン石スピネルやケイ酸塩ペロブスカイトの測定と分担して対象物質を広げることでマントル主要物質の測定をカバーするロードマップのようなものが視野に入ってきつつある。
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今後の研究の推進方策 |
マントル上部を構成する物質、カンラン石、ザクロ石、とくにMg主成分の輝石の熱拡散率・熱伝導率の測定を圧力条件15 GPaまでにて行う。測定できる温度がまだ1000 ℃止まりであるので、ヒーターの材質をいろいろ替えて実験を行い、マントル内での温度条件で測定ができるようにする。ひきつづいて上部マントルの下の遷移層を形成すると考えられるカンラン石の高圧相である変形スピネルとスピネルの熱拡散率/熱伝導率を圧力20 GPaまで測定し、また比熱の圧力依存性を求める。 さらに、新しい展開として次のようなことがあげられる。1.下部マントルの圧力での測定:圧力の目標を25 GPaとし、下部マントルの主要物質ケイ酸塩ペロブスカイトの測定を目ざす。2.輻射熱伝導の寄与の評価:カンラン石について焼結した試料を測定し、高温領域で単結晶と多結晶の測定値を比較して熱伝導への輻射の影響を見積る。3.マントル最下部の熱伝導率の推定:ケイ酸塩ポストペロブスカイト相と同じ構造の類似物質について測定を行い、その熱物性を類推する。4.パイロライトのような仮想マントル物質アセンブリー(推定混合物)の測定を行う。また、本研究を進める中で、実験法の適用の限界を見極め、試料アセンブリーの変更や、新しい測定方法の開発という方向が出されることも考えられる。 測定を遂行するにあたり、連携研究者の所属する岡山大学地球物質科学研究センターの施設を利用する。また、これまでと同じく中国地質大学ほかの研究者の協力も視野に入れている。 なお、測定の圧力が高くなると熱電対の熱起電力の圧力による影響が問題となる。高圧地球科学の実験ではこのことを往々にして無視しているところがあるが(補正なしで温度を示す)、熱伝導率(また比熱)の決定には温度上昇の絶対値を知る必要があり、避けて通れないこととなる。これをどのように解決するかはいずれ考えなければならない。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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