研究課題/領域番号 |
24540461
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研究機関 | 独立行政法人国立科学博物館 |
研究代表者 |
大迫 正弘 独立行政法人国立科学博物館, その他部局等, 名誉研究員 (60132693)
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キーワード | 地球深部物質 / 熱伝導率 / 熱拡散率 / 比熱 / 高圧力 / 川井型装置 |
研究概要 |
15 GPaを超える圧力での測定を目指し、縮小した試料セルでの測定を確立するために、従来の大きな試料セル(11-18セル)により値のわかっているザクロ石を用いて試験測定を行った。試料セルは相似形のまま前より一回り小さくして試料の直径は3 mm、等しい厚さの円盤形状を重ねたその合計の高さは0.7 mm内外とした。加圧には川井型装置を用い、8面体圧力媒体の1辺の長さは14 mm、アンビルの切り落とし長さは8 mmとした(8-14セル)。また、パルス加熱ヒーターにはこれまでのニクロム材質に代えてモリブデンのものにした。繰り返しの試行ののち、最終的には大小セル両者での測定値がよくつながることを見た。ただ、温度を上げた測定では値のばらつきがまだ大きい。また、熱拡散率と熱伝導率の同時測定から得られる比熱の値にも暴れがある。モリブデンヒーターは加熱で劣化(酸化)が見られたが、ヒーター・試料を取り囲む断熱スリーブや圧力媒体の脱水をよく行えば融点が高い分ニクロムヒターよりも高温で使えよう。試料セルの作成に治具や顕微鏡つき穴あけ機などを用いて加工精度を上げたにもかかわらず、測定精度が期待したほどよくはならない。使用したプレスのガイドブロックに歪みが出ており、そのためか押し出されたガスケットの厚さが方向によってやや異なるようである。プレスのこのような少しの狂いが加圧時の試料の不規則な変形を生じ、これが測定精度を悪くする原因の一つになっていることも考えられる。さらに小さい直径2.6 mm、高さ0.6 mmほどの大きさの試料で測定するために直径が2.4 mmのパルス加熱ヒーター(モリブデン製)を試作した。この大きさの試料セルを圧力媒体に14 mmのものを使い切り落とし長さ7 mmのアンビルで加圧し、ケイ酸塩ペロブスカイトの安定圧力領域での測定を目指している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
8-14試料セルの試験測定の結果、従来の大きな11-18セルによる値とのつながりがとれ、相似的に縮小した試料セルにより測定は問題なく行えることを確かめた。また、モリブデンのパルス加熱ヒーターのテストを行い、それによれば抵抗値が低くまたその温度係数が大きいという点で不利な純金属でも測定にはさしつかえなく、ヒーターのパターンを作成する上での問題(これまでのニクロムやモリブデンに用いていたフォトエッチング法が使えないのでそれに代わる方法を探す)を解決すれば耐食性のある単体高融点金属も使えるという見通しを得た。このようにして遷移層相当の圧力での測定の見込みがつき、目的の一つであるマントル遷移層物質のウォズレアイト、リングウダイト、メジャライトの測定を行うところまできている。このうちカンラン石の高圧相であるウォズレアイト、リングウダイトについては本研究代表者が中心となり、またメジャライトについてはオンファス輝石および透輝石の測定を行った共同研究者が中心となって進めることにしている。なお、この共同研究者による輝石の測定結果は研究代表者が先に測定していたヒスイ輝石の結果とあわせて近々印刷になる予定である。また大きな目標の一つであるケイ酸塩ペロブスカイトの測定については、圧力が高いだけに困難が伴うが、測定実験を行っている共同利用機関の研究者とも協力して試料作成と測定とを行うことで話を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
マントル遷移層物質のウォズレアイト、リングウダイト、メジャライトの熱拡散率・熱伝導率の測定を行う。できればMg主成分の輝石について測定も行い、主要上部マントル物質のデータの空白を埋める。つぎに下部マントル物質のケイ酸塩ペロブスカイトの測定を行う。遷移層から下部マントルにかけての条件での測定は、圧力については縮小したセルを用いることで可能となったが、温度についてはまだ不十分である。試料全体の加熱用ヒーターの材質としては白金または半導体セラミクスを用いることとし、これにはさほど困難はないと思われる。問題はパルス加熱ヒーターで、これをレニウムにするのがよいが、フォトエッチングに代るヒーターのパターン作成の方法(スパッタリングによる試料表面へ直接の生成など)を見いだす必要がある。研究期間内にこれが間に合わない場合には、測定温度をモリブデンヒーターによる上限でとどめることもあり得よう。 なお、測定の圧力が高くなると熱電対の熱起電力の圧力による影響が問題となる。高圧地球科学の実験ではこのことを往々にして無視しているところがあるが、熱伝導率(また比熱)の決定には温度上昇の絶対値を知る必要があり、避けて通れないこととなる。また、加圧プレスの少しの狂いが測定精度を悪くするのではないかとの疑いがある。吹き出しによる失敗さえなければよしとしているようにも見受けられるが、物性測定のためにはプレスの整備をきちんとしておくようにすべきである。 本研究の展開としては次のようなことがあげられる。1.マントル最下部の熱伝導率の推定:ケイ酸塩ポストペロブスカイト相と同じ構造の類似物質について測定を行い、その熱物性を類推する。2.輻射熱伝導の寄与の評価:高温領域で単結晶と多結晶の測定値を比較して熱伝導への輻射の影響を見積る。3.パイロライトのような仮想マントル物質アセンブリー(推定混合物)の測定を行う。
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