研究課題/領域番号 |
24540464
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研究機関 | 福井大学 |
研究代表者 |
大堀 道広 福井大学, 附属国際原子力工学研究所, 准教授 (50419272)
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研究分担者 |
CITAK Seckin 独立行政法人海洋研究開発機構, 地震津波海域観測研究開発センター, 研究員 (50581518)
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キーワード | 経験的グリーン・テンソル / 強震動予測 / 震源メカニズム解 / モーメント・テンソル / 経験的グリーン関数 |
研究概要 |
本研究では、「経験的グリーン・テンソル(EGTD)法を用いた強震動予測とその応用に関する研究」として、(1)EGTD法の高度化、(2)EGTD法による地震観測記録のシミュレーション、(3) EGTDによる地下構造の推定、(4) EGTDを用いたリアルタイム地震動予測、(5)実 施項目に関する成果発表、以上の5項目を実施内容の当初目標として掲げている。当該年度は、前年度の進捗を踏まえ、(4)を除く4項目に取り組む計画とした。 項目(1)に関して、EGTDによる広帯域地震動のシミュレーションを可能とするために、EGTDの推定を短周期側まで拡張する方法を検討した。その結果、各地震の震源特性の補正に必要となる震源時間関数を広帯域にわたって精度良く推定することが難しいことから、コーナー周期を一つの基準として、それよりも長周期側についてはこれまで通りに各地震の震源時間関数を用いて震源特性を補正し、短周期側についてはω-2モデルを仮定して各地震の震源特性をスペクトル上で補正することで、広帯域のEGTDを推定する方法を提案した。項目(2)に関しては、前年度に収集・整理した強震記録よりEGTD法の適用事例を増やすための解析を実施した。項目(3)に関しては、EGTDの主要動と後続波群に現れる特徴を、3次元地下構造と対応させてより良く理解するために、ノートPC程度の計算環境で3次元差分法シミュレーション解析が可能な小規模平野の地下構造モデルを収集し、解析を行う準備を整えた。さらに収集した地下構造モデルの波動伝播特性を検証し、モデルの改良を行う上で、Rayleigh波とLove波の位相速度の分散性を同時に利用することの重要性がわかったので、これに関連した検討を行った。項目(5)に関しては、研究成果を学会、国際シンポジウム、国際会議論文(採択済み)に発表し、現在は査読付き論文を投稿準備中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、本研究に集中的に研究に取り組むことができたが、研究を進めるうちに当初想定していなかった研究課題の難しさが改めてわかった感がある。例えば、EGTDによる震源近傍での強震動予測を目標とする都合から、一つの震源域でM4程度の地震が多数観測されていることが望まれるが、波形記録が複雑で震源特性が明瞭でない場合には、経験的グリーン関数法と同じく、EGTD法も適用が困難であり、観測記録全体の再現性が良好とはいえず、成果発表に遠く及ばない試行を重ねた感があった。一方、本研究に取り組むことで、これに関連する周辺研究の重要性や、EGTDの新しい利用法が見えてきた場合もある。例えば、EGTDの波形の特徴を正しく理解するためには、3次元差分法によるシミュレーション解析が有効であり、精度の高い地下構造モデルが必要となるが、収集した地下構造モデルを高精度化する上で。従来から広く利用されているRayleigh波ばかりでなく、Love波も合わせて利用することが重要なことがわかり、これに関連した研究成果も得られた。これらの知見は、EGTDにおいて地震波の識別・分離にフィードバックすることが期待できる。総じて、本年度は、学会での口頭発表の機会も増え、査読付きの国際会議論文も採択され、研究成果を発表することができたことから、昨年度「やや遅れている」レベルであったが、現在までの達成度としては「おおむね順調に進展している」に近いレベルであると自己評価している。
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今後の研究の推進方策 |
本年度までの2年間の研究を通じて、本研究課題の難しさも改めてわかった。最終年度となる次年度は、研究成果を効果的に発信することを念頭に、実施項目を絞り込む方針である。項目(1)「経験的グリーン・テンソル(EGTD)法の高度化」に関して、本年度に提案したEGTDの短周期までの拡張法について、経験的グリーン関数法との対比も含めて、妥当性を検証したいと考えている。項目(2)「EGTD法による地震観測記録のシミュレーション」に関して、項目(1)において構築された手法を用いて、広帯域地震動シミュレーションの適用事例を積み上げる予定である。項目(3)「EGTDによる地下構造の推定」に関しては、当該年度に収集した3次元地下構造モデルを用いた3次元有限差分法によるシミュレーションを行い、EGTDの波形における後続波群と地下構造との関係を調べる予定である。また、Rayleigh波とLove波を同時に用いた地下構造モデルの高精度化に関しても検討したいと考えている。項目(5)「実施項目に関する成果発表」に関して、学会での口頭発表や国際会議に加え、査読付き論文(投稿準備中)を通じて内外に広く発信する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究代表者が購入予定のノートPC、ソフトウェア、学会出張費の一部と、研究分担者が購入予定のソフトウェア、学会出張費の一部が、他の経費で取得できたことや、英文論文の執筆が遅れたために英文校正費の支出が次年度に繰り越しになったことなどが主な要因である。 研究代表者によるソフトウェア、英文校正費、論文投稿料等の支出を予定している。また、研究分担者が次年度8月にイスタンブールで開催される第2回ヨーロッパ地震工学会議に渡航し、発表するための旅費、会議参加費および論文投稿料の支出を予定している。
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