平成26年度はラージ・エディ・シミュレーション(LES)により、前線における融解冷却の効果に関する感度実験を行った。 過去のレーダ観測により詳細な温暖前線、寒冷前線の構造が得られている事例について、融解冷却の効果に着目して前線構造の格子間隔依存性について調べた。融解冷却が小さいケースでは大気場は冷却に対して線形的に熱源応答し、結果の格子間隔依存性は弱く、冷却により生じる重力波による降雨帯形成が格子の大きさに依らず見られた。融解冷却が強いケースでは、格子間隔を小さくすると融解層内での成層の不安定化による小規模な積雲の発達が促進され、雲粒の併合による降水粒子の成長により降水が強化されることが確認できた。また、大気下層に融解冷却起源の冷気外出流が発達し、その先端で浅い対流性の降雨帯が形成することも確認された。
研究期間全体を通じて得られた主要な成果として、まず、前線層における乱流を陽に解像する格子間隔で数値実験を行うことにより、現実的な前線構造が再現できたことが挙げられる。小規模乱流が陽に解像されることにより、前線面はある程度の幅を持つ乱流の強い前線層として表現された。従来の数値実験では、前線に伴う小規模な擾乱のスケールや強さは物理的に決まるのではなく、計算格子間隔や数値粘性など、モデル依存したパラメータにより決まっていた。本課題で行った数値実験で再現された降水の微細構造やシア不安定波などの各種擾乱は物理的に意味のあるものであり、擾乱の特性や環境場依存性について得られた知見は重要であると考えられる。また、本研究課題で得られた結果は現象の物理的な理解に基づく雲解像モデルのパラメタリゼーションの精度向上に資すると考えられる。
|