研究課題
海洋は地球の表面積の7割を占め、気候の維持や物質循環において重要な役割を果たす。その平均水深は4000m弱であるが、一般には深海には流れがほとんどなく、よどんでいると考えられがちである。しかし、実際には数cm/sの平均流があり、短期的には十数cm/sに達する。海面付近の流れの1/10程度であるが、深海の体積を考えると、両者は同程度の寄与を持つ。けれども、深海における流れ、特にその変動の実体は、観測の困難さゆえに、十分に解明されていない。東北地方の太平洋沖で、日本海溝東斜面を含む3点で得られた2000日の長期測流データの解析をおこなった。数か月周期の変動は卓越するものの、期待される季節変動等は顕著ではなかった。また、1年間だけ測流を実施した北側の測線との相関を調べると、海溝に沿って北向きに位相の伝搬があり、海溝斜面に沿った地形性波動が示唆される。衛星高度計データでは東北沖を北に動く様子が見られるため、これと関連すると思われる。一方、西向きに伝播する惑星ロスビー波は明瞭には検出できなかった。深層を対象とする単純化した数値シミュレーションを実施し、比較を行った。変動の周期はおおむね一致するが、位相は観測とは合わない。モデルの変動は海上風に起因するので、変動の原因が風であると特定できたが、伝播機構(成層構造)等、モデルが十分に再現できていないため、位相が合わないと考えられる。また、振幅はモデルは極めて小さく、粘性等の与え方に改善の余地がある。複雑なモデルでの再現性を確認するため、海洋研究開発機構が運用している大規模なデータ同化モデルとの比較も行った。周期は合うが位相が合わない点は上記のモデルと同様であるが、振幅はよく再現されていた。今後、上記の深層モデルと詳細な比較を行う予定である。係留系のデータ解析の結果を取りまとめて原著論文として投稿予定である。
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Deep-Sea Research I
巻: 90 ページ: 125-138
10.1016/j.dsr.2014.05.005