2012 年に行われた乱流計観測データの解析を継続したが、信号伝達用光ファイバーに由来すると思われるノイズが除去しきれず、研究の為の解析に耐えうるデータとはならなかった。メーカーにこの結果をフィードバックした結果、センサーはデザインを一新して光ファイバーを用いない自己記録・回収型と進化した。現在この新デザインのセンサーのテストに協力している。 アルゴフロートを用いた全球渦輸送に関する解析は、二本の論文に結果がまとめられつつある。一本目では全球の 1000 メートル以浅の渦輸送量が推定された。その結果、北半球の西岸境界流および南極環海流で毎秒 1 平方メートルを越える断面渦輸送量が見積もられた。これは 1000 メートルでの密度の等値線に沿った向きと直交する成分を持つ。また北半球南半球中緯度では密度等値線に直交して傾圧不安定理論の予測する向きに毎秒 0.5 平方メートル前後の断面渦輸送量が見積もられた。とくに南インド洋で見積もられた北向き輸送は、従来の数値計算では指摘されておらず、南極中層水の極向き輸送に大きな役割を果たしていると考えられる。二本目の論文ではとくに渦力学が重要となる南大洋に限った解析を行った。この海域で密度等値線の変化をよく表す人工衛星由来の海面高度データと組み合わせて、渦輸送だけでなく渦による東西運動量の海洋中の鉛直伝播量も見積もった。その結果上層から下層への東向き運動量がケルゲレン海台・マクウォリー海嶺・太平洋南極海嶺・南東南西両インド洋海嶺・ドレーク海峡など環海流が海底地形を乗り越える点に局在している事が示された。これは近年数値シミュレーションの結果から提唱されている「環海流はあまり渦の強制を受けない大部分と局在した渦強制点から成る」という intermittent ACC の考え方を支持する観測結果である。
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