研究課題/領域番号 |
24540476
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 独立行政法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
田口 文明 独立行政法人海洋研究開発機構, 地球シミュレータセンター, 研究員 (80435841)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 北太平洋十年規模変動 / 海洋表層貯熱量 / 亜寒帯前線 / 海洋ロスビー波 / 密度補償 / 塩分偏差 / 大気海洋結合モデル / 国際研究者交流 (米国) |
研究概要 |
海洋表層貯熱量は、気候シグナルを長期にわたって記憶することから、年々~十年規模変動の予測可能性の鍵を与えると考えられる。北太平洋の十年規模変動に着目すると、良く知られた西方伝播する海面高度偏差とは対照的に、貯熱量偏差はしばしば東方伝播することが報告されている。本研究の目的は、このような伝播特性の違いに着目し、これまで十分に調べられてこなかった海盆の西岸から東岸に向かって東方伝播する貯熱量シグナルの力学とその強制機構及び大気影響を明らかにすることである。本年度はまず、地球シミュレータセンターで開発された大気海洋結合モデルCFESの長期積分結果を詳細に解析し、結合モデルの中で起こっている貯熱量変動メカニズムを明らかにした。解析の結果から、中緯度北太平洋に於ける海洋貯熱量変動の多くの部分は、塩分と密度補償した形で存在すること、密度補償する水温の南北勾配が大きい北西太平洋亜寒帯前線帯で貯熱量の変動も大きいこと、さらに風系変動が引き起こす西方伝播する等価順圧的な鉛直構造を持つ海洋ロスビー波によって生じた亜寒帯前線の南北変位によって大きな貯熱量の変動が引き起こされることを示した。密度補償している故に、このように亜寒帯前線帯で生じた貯熱量偏差は、passive tracerのように東向きの背景流により東方へ移流される。この結果は、海面からの熱強制だけでなく、海洋循環の変化による力学的な強制によっても、顕著な海洋貯熱量偏差が生成・伝播することを示唆している。以上の大気海洋結合モデルの解析結果に基づき、海洋前線帯の南北変位に伴って、西方伝播するロスビー波と東方伝播する密度補償した水温偏差がリンクする新たな北太平洋十年規模変動メカニズムの仮説をまとめ、国際専門誌に投稿した (Taguchi and Schneider, submitted to Journal of Climate)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
交付申請書に記載した「研究の目的」では、大気・海洋再解析データと高解像度海洋大循環・中解像度全球大気海洋結合モデルの長期積分結果を相補的に活用することにより、以下の4つの課題を掲げた。 課題1: 北太平洋における海洋表層貯熱量の十年規模偏差の伝播メカニズムの解明 課題2: 海洋表層貯熱量の十年規模偏差の強制メカニズムの解明 課題3: 海洋表層貯熱量の十年規模偏差の大気への影響の解明 課題4: 海洋表層貯熱量の十年規模偏差の気候系への影響の解明 平成24年度の研究実施計画では、上記の課題1を遂行することと、成果のうち大気海洋結合モデルによる解析結果を国際学会で発表するとともに、論文の執筆を開始することを目標とした。「研究実績の概要」に記載したように、今年度は実際に課題1と課題2を実施することができ、その成果を3件の国際学会(日本地球惑星科学連合 2012 年大会、AOGS-AGU/WPGM Joint Assembly, PICES 2012 Annual Meeting)と1件の国内学会(2012 年度日本海洋学会秋季大会)で発表し、国際専門誌(Journal of Climate)に論文を一編投稿した。また、研究の目的に掲げた「十年規模変動」についてではなく、「気候平均場」についてではあるが、上記の課題3に関連した成果として、南太平洋の海洋深層流ジェットの大気海洋相互作用に関する論文を一編出版し(Taguchi et al. 2012, Geophysical Research Letters)、北太平洋ハワイ風下反流に伴う大気応答とその海洋への再影響に関する論文(Sasaki et al. 2013, Journal of Climate 印刷中)を含む6編の共著論文を出版した。
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今後の研究の推進方策 |
1. 研究計画の課題1と課題2について提唱した仮説の観測データによる検証 大気海洋結合モデルの結果をもとに提唱した北太平洋海洋表層貯熱量十年規模偏差の伝播及び強制メカニズムに関する仮説を、Argo フロートによる海洋観測データを用いて検証してゆく。Argoフロートは、海面から深さ2000mまでの間を自動的に浮き沈みしながら水温・塩分を観測しており過去10年以上にわたってデータが蓄積されている。研究代表者が所属する海洋研究開発機構を始め複数の研究機関で公開されている格子化再解析データを用い、亜寒帯前線帯の南北変位に伴う密度補償した水温・塩分偏差の生成、及びその東方への伝播が捉えられているかを確認する。 2. 研究計画の課題3「 海洋表層貯熱量の十年規模偏差の大気への影響の解明」の実施 大気海洋結合モデル(CFES)を用いた感度実験を実施して、海洋表層貯熱量の十年規模偏差の生成・伝播メカニズムの検証を行うとともに、大気への影響を解明する。これまで実施したCFESの150年標準実験の結果から複数の初期値を選び、現実の北太平洋の偏西風変動を模擬した風応力偏差を与えながらモデル計算を実行し、北太平洋西岸域で海洋前線帯の南北変位を引き起こす。このような海洋前線変動に対する太平洋大気海洋結合系の応答を詳細に解析する。 3. 研究計画の課題4:「海洋表層貯熱量の十年規模偏差の気候系への影響の解明 」の実施 海洋貯熱量変動と海洋モード水変動の関連について調査する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度は、既存のデータセット(大気海洋結合モデルの長期積分)のみを用いた研究に集中したため、予定していた大容量データ記憶装置(~500,000円)を購入せずに済み、研究費の次年度使用額が発生した。平成25年度は大気海洋結合モデルを用いた新たな数値実験を予定しており、その出力データを格納するデータ記憶装置が必要になる。次年度使用額はこのデータ記憶装置購入に当てる。また平成25年度に請求する研究費は、投稿した論文が受理された場合の論文投稿料(~400,000円)及び別刷料(~100,000円)と、予定している国際学会発表(Frontal Scale Air-Sea Workshop@Boulder、及びOcean Sciences Meeting@Honolulu、~300,000円x2)のための旅費に当てる予定である。
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