研究課題/領域番号 |
24540479
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
渡辺 正和 九州大学, 国際宇宙天気科学・教育センター, 准教授 (70446607)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | シータオーロラ / 沿磁力線電流 |
研究概要 |
研究計画に基づき、初年度は観測データ解析の環境整備とシミュレーションの環境整備を中心に行ったが、同時にサイエンス面についても開始するよう努力した。研究目的に挙げたいくつかのテーマのうち、シータオーロラの生成過程とそれに付随する沿磁力線電流系についてシミュレーションをある程度進めることができた。シミュレーション結果の解析より得られた成果は、シータオーロラにともなう未知の大規模沿磁力線電流の存在を示唆できたことである。シータオーロラは惑星間空間磁場が強い北向きの時、朝夕成分が急に反転すると形成されることが多いことが知られている。これをシミュレーションで再現した。シミュレーションによる再現自体は過去の研究でも行われているが、本研究で使用しているコードは電離圏現象を観測と比較可能な解像度で計算できるという特長を活かし解析を進めたところ、昼間側のいわゆるNBZ電流と同じ極性の沿磁力線電流がシータオーロラに沿って発生していることがわかった。この電流は南北半球で反対称的に現れ、惑星間空間磁場朝夕成分の符号が逆になると流れる方向も逆になる。このような電流系は過去の観測では指摘されたことがない。しかし、過去に観測例がないことは、シミュレーションで現れた沿磁力線電流系が存在しないことを意味しない。シータオーロラは発生頻度が小さく、観測の制約があってその全貌が明らかになっているわけではない。限られた観測データをそのような沿磁力線電流に着目して解析した人が過去にいなかっただけである、と考えている。また、観測と違ってシミュレーションでは磁気圏における沿磁力線電流の発生過程を調べることができる。解析により磁気圏ではプラズマシート境界の熱エネルギーが電磁エネルギーに変換されていることがわかった。この沿磁力線電流の生成機構は、シータオーロラの場合に限らず、将来理論式として一般化できそうである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
初年度は観測データ解析の環境整備とシミュレーションの環境整備が大きな目標であった。シミュレーション環境は、ワークステーションを立ち上げ可視化ツールや解析ツールをある程度整備することができた。一方観測データ解析の環境は、一部当初の計画のように進んでいない。特に、SuperDARN (Super Dual Auroral Radar Network) データを九州大学で独自に解析できるよう、標準解析ソフトを九大のワークステーションに導入する予定であったが、達成できなかった。観測とシミュレーションの比較は本研究課題の中心であるので、今後この遅れを取り戻すよう努力したい。
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今後の研究の推進方策 |
シータオーロラに付随する沿磁力線電流系についてシミュレーションである程度結果が出たので、これを成果としてまとめるとともに観測により検証を行う。後者はDMSP(Defense Meteorological Satellite Program)衛星で得られる降下粒子・イオンドリフト・磁場データを組み合わせて総合的に解析する。磁場データは観測実施責任者にデータリクエストをしなければならないが、惑星間空間磁場データとDMSPの降下粒子データを用いて事象リストを作成する。また、初年度にできなかったSuperDARNデータの解析ソフトを九州大学のワークステーションに立ち上げる。これには国立極地研究所の行松彰准教授らに協力をお願いする。これらデータ解析環境の整備に努めるとともに、以下に例示するようなテーマについても研究を開始する。研究には九州大学の大学院生・学部生にも参加してもらう。 (1)三日月型対流セルの分裂とその発生条件の解明:惑星間空間磁場朝夕成分が卓越するときに形成される三日月型セルは研究代表者が提唱した混交サイクル(hybrid cycle)による磁気圏対流の一形態であると考えられる。基本形では三日月型セルが2つに割れることが理論的に予想されている。これを観測・シミュレーションの両面から調査する。 (2)夜側に現れる惑星間空間磁場朝夕成分に制御された沿磁力線電流系の起源:惑星間空間磁場朝夕成分に制御された沿磁力線電流系が昼側だけでなく夜側にも存在することが観測的に知られている。その起源について、研究代表者はこれを混交サイクルの作る夜側の対流セルであると予想しているが、これをシミュレーションで検証する。
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次年度の研究費の使用計画 |
比較的大きな使途は、ワークステーションのハード面の環境整備である。シミュレーション・観測データの解析のためにワークステーション1台を運用しているが、この端末を整備する。現在ワークステーションは研究代表者の居室に設置しているが、研究に協力してくれる学生が各自の居室からこれにネットワークでアクセスすると、(ネットワーク上で)一度学外に出なければならないためデータ転送が非常に遅い。このため、グラフィックスソフトが使用できないことがある。これを回避するため、ワークステーションに直接ぶら下がる端末を複数作る予定である。また状況に応じて、2台目のワークステーションを導入し、解析環境を強化する予定である。 以上に加えて、本来の目的であるサイエンスの成果が少しずつではあるが出ている。この成果発表を行うための学会旅費や、論文が掲載受理された場合の投稿料にも研究費を使う。
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