研究課題
基盤研究(C)
従来の電波掩蔽観測のデータ解析では電波を1本の光線として扱う幾何光学解法が用いられてきたが、複数の異なる経路の電波が同時に受信器に届くマルチパスを正しく扱えないこと、回折効果により高度分解能が制限されること、が難点であった。これらを解決する新たな手法として、受信信号の位相と振幅の時系列データ全体を同時にスペクトル解析する電波ホログラフィ法の初期検討を行った。今年度はホログラフィ法の一つであるFull Spectrum Inversionを欧州の金星探査機Venus Express電波掩蔽のオープンループデータに適用すべく、地球大気のGPS電波掩蔽のために開発されたアルゴリズムをもとにソフトウェアを開発した。この手法は電波源と受信点がともに惑星のまわりのほぼ円軌道上にあることが前提であるが、この前提にあてはまらない金星電波掩蔽で観測された位相データを仮想的な円軌道でのデータに補正し、これを解決することを試みた。こうして補正したデータにFull Spectrum Inversionを適用した結果、従来の幾何光学解法とよく似た鉛直大気構造が得られ、そこには幾何光学解法よりも細かな構造が見られた。ただし高度方向に1km程度のオフセットが生じており、その原因を明らかにすることが来年度以降の課題である。また、新たにとらえることのできた微細構造が実際の大気構造であるのかノイズであるのかについても検証が必要である。
2: おおむね順調に進展している
本研究課題である電波ホログラフィ法の惑星観測への応用に向けて、そのような手法の一つであるFull Spectrum Inversionをすでに実際の観測データに適用し、一部に問題を認めながらも新たな手法がもっともらしく機能することを確認できた。来年度以降に詳細な検討を行うことで実用段階に持って行ける見込みが立った。
金星探査機Venus ExpressのデータにFull Spectrum Inversionを適用した結果明らかになった、幾何光学解法の結果と比較したときの高度オフセットの原因を、シミュレーションデータを解析するなどして明らかにする。Back propagationなど他のホログラフィ法も試し、トレードオフを行う。次に、得られた鉛直気温分布から鉛直波数についてのパワースペクトルを求め、最も小さいスケールまでパワーの上限が大気重力波の理論飽和スペクトルで制限されていることを確認し、結果の信頼性を評価する。このあとVenus Expressの全データをホログラフィ法で解析し、微細温度構造のグローバル分布を明らかにする。こうして得られた結果をもとに、重力波による平均流加速と乱流生成、乱流のカスケードによるエネルギー消散、水平乱流による運動量輸送などを解明する。
Venus Expressのデータを新たな手法により解析し、その信頼性を検証する。欧州のVenus Expressチームと緊密に情報交換し議論を行うために、ドイツを中心に欧州に数回の訪問を計画している。成果発表のために欧州の惑星科学の会合に参加する。また大量のデータを解析処理するためにハードディスクなど計算機関係にも支出する。
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