研究課題/領域番号 |
24540485
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 東京学芸大学 |
研究代表者 |
藤本 光一郎 東京学芸大学, 教育学部, 准教授 (80181395)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 断層物質 / 地震 / 非晶質 |
研究概要 |
1.天然の断層物質の解析 断層破砕帯の分布や構造が分かっている兵庫県の野島断層や六甲断層および三重県の中央構造線を対象に,断層破砕帯の詳細な記載と解析を行い,熱水変質の環境などを推定した.また,破砕帯内部で系統的に薄片による粒度分析を行い,変形の集中する断層コアでは周囲の破砕が弱い部分に比べて粒径と累積頻度の関係を示すべき数が2を超える程度に大きくなっている傾向が示された. 2.加熱と粉砕によるカオリナイトとサポナイトの非晶質化 加熱によってカオリナイトは470 ℃から1000℃の間で80分から2分以内で非晶質化した.また,加熱によるサポナイトの非晶質化にはそれより長い時間が必要であった.カオリナイトの非晶質化の活性化エネルギーは,98kJ/mol となり,これはカオリナイトの水溶液中への溶解の活性化エネルギーと近い値である.一方,遊星型ボールミルによる粉砕実験によってカオリナイトはおよそ180 分,サポナイトは540 分でほぼ完全にピークが消え非晶質化した.粉砕容器内で発生する衝突エネルギーは近似的には5.3J/s と見積もられ,それがすべて非晶質化に用いられるとすれば,試料1kg の非晶質化に必要なエネルギーはカオリナイトは9550kJ/kg,サポナイトは28700kJ/kg と見積もられた. 大地震においては,数十秒のすべり時間で1000 ℃近い温度上昇が見込まれる.また,断層岩の粒径解析などから大地震の破壊エネルギーは1000~10000kJ/kg となる.カオリナイトは大地震の破壊エネルギーによって非晶質化される可能性がある.一方でサポナイトはカオリナイトよりは非晶質化されにくいことが示唆された.台湾のチェルンプ断層のガウジではカオリナイトの選択的消失がみられるが,カオリナイトの非晶質化のしやすさを反映していると考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
天然の断層物質解析については,粒径分布を用いた破砕の定量的解析については,ほぼ予定通りデータを取得でき,解析手法も改良することができた.鉱物解析についてもほぼ順調に進んでいる. 非晶質化についての実験についても,カオリナイト,サポナイトについて加熱と粉砕の両者のプロセスでそれぞれの非晶質化を実現し,非晶質化に必要なエネルギーを評価することができた.これと実際の地震エネルギーとの比較が課題となっている.
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今後の研究の推進方策 |
統合:天然の断層物質と実験生成物の粒度分布や産状の比較検討を進める. 天然の断層物質の解析:24年度に引き続き,野島断層と中央構造線の断層物質の解析と実験を進める.二つの断層ははいずれも花崗岩地殻に内陸地震の活動を見ているので,比較検討のため沈み込み帯の地震の断層も検討する.対象としては四万十付加体中の延岡衝上断層を予定している. 実験:24年度に引き続き,粘土鉱物として新たにイライトも加えて粉砕と加熱実験を継続する.初年度は単一鉱物を出発物質としたが,複数の粘土鉱物を混合させるなどより天然の断層物質に近い条件で実験を行う.また,実験後の物性評価も実施する. 統合:組織や粒度の比較検討に加えて熱力学的,反応速度論的検討を行い,断層内の微細粒子の生成条件や成因を解明する.また,断層内物質の解析から過去のすべり挙動の復元を目指す.
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次年度の研究費の使用計画 |
大きな備品購入はせずに,試料研磨や粉砕のための物品を購入する. 試料作成やデータ整理のために謝金を支払う. 論文を執筆するので,英文校閲などの費用にあてる. 12月のサンフランシスコで開催される米国地球物理学連合で成果を公表する予定であり,そのための旅費を支出する.
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