研究課題/領域番号 |
24540496
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
角和 善隆 東京大学, 総合文化研究科, 助教 (70124667)
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キーワード | 生痕化石 / 放散虫チャート / 遠洋深海 / 底生生物の進化 / 海洋環境の変動 |
研究概要 |
約4億7千万年前から4億5千万年前の、オルドビス紀における遠洋深海底に生息する底生生物の進化と海洋環境の変遷を検討する目的で、2013年10月12日から31日に、カナダNewfoundland島北東部に分布する放散虫チャートの生痕化石に関して、産状観察と試料の採取を予定通りおこなった。その結果は以下のようにまとめられる。 1。検討した3累層に共通することとして、時代の相違が多少有るものの、赤色チャートではPlanolites-typeで数mm程度の大きさのもののみが確認された。2。特にShoal Arm累層(SA累層)とStrong Island Chert層(SIC層)については下位に赤色チャートがそして上位に灰色チャートが載るという共通の色調変化が見られた。そして生痕化石は、下位の赤色チャートのものと比べると、上位の暗灰色チャートでは10cmを超える大型なものがあり、多様性はより高いことが確認された。3。SA累層の赤色チャートとSIC層の灰色チャートは、それぞれ同時代でありながら、前者では多様度が低く小型であることから、赤色チャートと灰色チャートの堆積環境では、後者の方が底生生物の生息環境として好適であった可能性を示す。4。SA累層の中上部において微細葉理が発達する部分と生痕が発達する部分が繰り返し出現するがSIC層では明確に確認できなかった。これは両者が異なった堆積盆で堆積したことを示す。5。地域地質のデータと観察した両者の層相統合すると、SA累層は比較的閉じられた地形的高まりに形成された堆積盆にチャートが一時的に堆積したと推定され、酸素レベルの頻繁な変化は地域的に限られた変動である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
野外調査:新しい良い露頭が見つかったため、露頭において明確に生痕化石が視認できただけでなく、一見異なった生痕化石と思われたものも立体構造を詳細に観察することができ、一つの大型の生痕化石であることが確認できた。またチャートの色による相違や、時間の変遷による酸素レベルの変動という環境変化の解読もできた。3つの異なった露頭を検討することで、それぞれ下位層と上位層の相違に基づく環境の違いが生痕化石の相違に反映されていることも分かった。これらを総合すると、達成度は100%以上である。 室内観察:昨年度と同様に観察を効率よく行うことができた。しかし、大型岩石切断機の調子がやや悪く、予定していたほどは進まなかったので、成果の達成度は80%程度である。
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今後の研究の推進方策 |
2013年度の野外調査および試料の処理、観察はほぼ順調に進行したので、当初の計画通り、野外調査・試料採取をカザフスタンでおこなう予定である。ここでは、2012年度に検討したオーストラリアにおけるものとほぼ同時代かやや古いカンブリア紀後期の放散虫チャートが分布し、オーストラリアでは灰色、カザフスタンでは赤色という異なった色調、すなわち異なった底層環境の大洋関するデータの取得が可能である。また、カナダでは赤色チャートの生痕化石は灰色チャートのものと比べて大きさは小さく多様度も低かったが、それが特殊な事象なのか、普遍的なのか、後者であるならその原因は何かを考察する材料が得られるだろう。 研究手法については、今年度確立したものを踏襲する。
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