2013年度にカナダ、ニューファウンドランド(NFL)および2014年度カザフスタンで採集した試料の解析を、岩石薄片および岩石研磨面、フッ酸腐食面などで継続して行った。岩石薄片の観察の結果、例えばNFLでは粘液を周囲に分泌して掘り進むタイプの生痕があることが分かった。また主に堆積面に垂直方向に切断・観察していたものを、堆積面に平行あるいは斜交して切断するなどして生痕化石を三次元的に捉え、NFLの珪質岩では10cmにおよぶ巨大なTeichichnusが存在することを明らかにした。これは同時代の同じイアペタス海のスコットランドの例(1cm以下)、と比較して大きな相違がある。両者は珪質岩であるが、NFLでは陸源物質の影響が強く見られ、栄養が豊富であった結果であることを示唆する。 調査した各地のデータを総合した結果、生痕化石を形成した底生生物は遠洋深海域において、カンブリア紀後期では地域の環境により出現する場合としない場合がある。一方オルドビス紀中期(Darriwilian)には調査した4地域全てで底生生物の活動が確認された。また、赤色系チャートでは一般に生痕化石は不明瞭で、遠洋深海底では、栄養分の供給が底生生物の活動を大きく支配することがわかった。 なお、最終年度予算では補足的にオーストラリアの南東部ラクラン褶曲帯の特に北部縁辺部の野外調査を行ったが、上位層である玄武岩による被覆や著しい変形などにより、新な生痕化石の発見など追加すべき顕著な知見は得られなかった。 これらの成果について、2015年度では日本堆積学会、日本地球惑星科学連合などで公表し、また2016年度では日本堆積学会で公表し、日本地球惑星科学連合において発表の予定である。また成果をまとめた論文は現在2本投稿、査読中である。
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