四国山地西部から四国南西部をはじめとした各地において中新統の調査を行い,前期中新世の前孤域における堆積作用と古生物群集についてのデータを収集・解析した.その結果,「同時代の前孤域では,活発な構造運動が古生態系に影響を及ぼしていた可能性が高い」との作業仮説を裏付ける複数の結果が得られた.一部をまとめると,以下の通りである.まず,四国山地西部に分布する久万層群は,伸張場における活発な半地溝群を崖錘や網状河川などが埋めた陸成堆積物であり,前孤内陸部での大量の砕屑物生成を示唆する.その下流方向に位置する前孤海盆堆積物(三崎層群)の層序,堆積相,生痕群集,生痕ファブリックは,前孤海盆域で頻繁かつ急速な堆積作用が卓越した結果,生物源堆積構造が希釈されていただけでなく,貧弱な底生群集しか成立し得なかったことを強く示唆すること,などである.また,イベント堆積物の堆積過程を単層スケールで復元した後,それに応答した埋在性小型底生動物群集の遷移過程の高い精度での復元を試み,ある種の小型生痕化石を形成した動物の植民過程を復元することもできた.さらに,波浪卓越型浅海域,潮汐卓越型浅海域,そして,河川域における津波堆積物の堆積相モデルの確立に寄与し得る観察結果も得られた. また,助成期間を通じて,ICHNIA2016などの国際集会で10回を超える講演を行ったほか,2015年には,筆者が中心となって,13カ国38名の参加者を迎えた13th International Ichnofabric Workshopを開催することが出来た.さらに,多数の国内学会での講演,複数の原著論文の公表を行ったほか,国内学会からは1件の学術賞と1回の招待講演の機会を賜った.上記のように,総体的に見てある程度の成果を発信することが出来たと考える.
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