研究課題/領域番号 |
24540501
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研究機関 | 独立行政法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
田中 源吾 独立行政法人海洋研究開発機構, 海洋・極限環境生物圏領域, 研究技術専任スタッフ (50437191)
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研究分担者 |
前田 晴良 九州大学, 総合研究博物館, 教授 (10181588)
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キーワード | 光スイッチ説 / カンブリア紀 / 例外的に保存の良い化石 / 節足動物 / 中枢神経系 |
研究概要 |
本年度は、雲南大学に保管されている4万点におよぶチェンジャン動物群の化石のうち、通常では化石として残りにくい複眼が保存されている節足動物化石のうち、アラルコメネウス属の未記載種に注目し、高解像度の光学顕微鏡観察、マイクロCTスキャン、およびエネルギー分散型蛍光X線分析を用いて、標本の複眼内部の詳細な形態や複眼部分を構成する元素の分析を行った。 その結果、複眼を構成する1つ1つの小さな個眼を発見しただけではなく、複眼から伸びる神経や、通常では化石に残らない脳をはじめとした中枢神経系がほぼ完壁に保存されていることも発見した。そしてこの神経系を詳細に調査したところ、眼と前大脳の間に1つの大きな神経網(1次視神経網)と、前大脳に続く4つの神経網が頭部に存在することを確認した。また、中大脳の神経節から大付属肢に神経が伸びていることから、カンブリア紀の節足動物の大付属肢と現存する鋏角類(サソリ、カブトガニの仲間)の鋏角(節足動物の付属肢の一種で餌等を掴むための口器)が共通する祖先に由来すること(相同性)が明らかになった。 さらに、今回発見されたアラルコメネウスの中枢神経系の配列様式が、現生する節足動物の中で鋏角類に最も類似していることからも、系統樹においてカンブリア紀の大付属肢型の節足動物が鋏角類に位置づけられることが示された。これまで、化石を用いた生物進化における外部形態の変化の研究と比較して、神経系の進化については解明が進んでいなかったが、本成果を足掛かりとし様々な標本の系統的な解析を進めることによって、生物進化における中枢神経系の発達過程が明らかになると期待される。本研究の成果は2013年10月16日付のNature誌に掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度の研究内容は、雲南大学に保管されている化石標本を調査し、通常では化石として残りにくい複眼が保存されている節足動物化石の眼を研究することであった。眼が保存されている1つの標本を詳しく調べたところ、複眼の細部構造だけでなく、脳をはじめとする中枢神経系がほぼ完ぺきに保存されていることを発見した。このことから、複眼のみならず、その視覚情報を処理する脳や、視覚で得た情報から付属肢での行動に移す際の、神経伝達系が、カンブリア紀初期の節足動物においてすでに洗練化されていたことを明らかにした。当該研究成果は、国際誌「Nature」に公表され、「カンブリア紀の中枢神経系の化石の研究」という新たな金字塔を、日本人が世界ではじめて打ち立てることに成功した。
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今後の研究の推進方策 |
本成果はカンブリア紀前期という生物の進化の解明に非常に重要な時代の生物の中枢神経系を、非破壊でデータを取得しイメージングできることを世界で初めて示した。 今後は、本成果を足掛かりとして様々なカンブリア紀初期の標本の系統的な解析を進めることによって、生物進化における中枢神経系の発達過程が化石記録から明らかになると期待される。
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次年度の研究費の使用計画 |
前倒し請求ではジャーナル掲載料として60万円を申請した。しかしながらジャーナル掲載料として投稿していた論文の受理が遅れているため、当該年度での支払いの必要がなくなった。しかし、Nature誌に投稿した論文が受理され、予想していなかったカラーチャージ代金(341,884円)が必要になったため、また、当該年度の当初予定の科研費ではこのカラーチャージ代を賄えなくなったため、やむなく前倒し請求した金額の一部(約20万円)をこのカラーチャージ代に充てた。 前倒し請求で使用した本年度の研究費20万円は、翌年度に予定していた学会発表を行わないことで26年度の配分額の調整をおこなうこととした。研究が予想以上に進展し、学会発表をする前に論文として投稿、受理を目指す意図もある。
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