研究課題
本研究は,目のレベルで絶滅してしまった海生哺乳類の束柱類(デスモスチルスやパレオパラドキシアの仲間)について,歯のエナメル質に残された体内生理の周期的変動の刻印である成長線を指標として,同一個体から成長線に沿った複数の試料を連続的に採取して,炭素・酸素および微量元素(ストロンチウム)の安定同位体比分析に基づいて,この仲間の生活史を年周期よりも短い周期(季節周期)の精度で明らかにすることを目的としている.最終年度である今年度は,国立科学博物館に所蔵されているデスモスチルスの歯牙標本からの試料採取に加えて,足寄動物化石博物館および米国スミソニアン研究所に所蔵されている最後臼歯の単離した咬柱(合計で5点)からも精密低速切削工具(直径1mm)を用いて歯の歯冠エナメルの成長線に並行に試料採取(1標本あたり1mm間隔で6~22ポイント)を行ない,個体に起こった周期的な生理反応もしくは行動生態の更なる検出を試みた.試料の分析にあたっては,安定同位体質量分析装置MAT253により炭素と酸素の同位体比を測定した.その結果,最終的に13個体のデスモスチルスにおいて,炭素と酸素の同位体比が同期して一定の周期で変動する個体とそうでない個体の両方が存在したことを確認した.このことを酸素同位体比の標準誤差に基づいてより詳しく検索した結果,標準誤差については一部の個体で誤差が小さい一定の時期の後に誤差が大きくなる短い時期が周期的に挟まれる傾向として捉えることができた.このことから,デスモスチルスは集団の中に飲水の場所を周期的に変える個体が一定の割合で存在した可能性が示唆された.ただし,微量元素分析の結果から,個体の「周期的移動」は地理的には狭い範囲に留まったものと推測された.以上から,デスモスチルスは内湾の汽水域に生息し,性別によって海岸から一定の異なる距離で異なって行動をとっていたと考えられる.
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Historical Biology
巻: 27 ページ: 印刷中
10.1080/08912963.2015.1046718