地球の表面積の半分以上は深海底であり、深海底の海水-堆積物間の物質の挙動は全球の物質循環に非常に重要な役割を果たしている。従来、深海底では光合成由来の沈降有機物が唯一のエネルギー源であると思われてきたが、通常の深海底でも独立栄養細菌による化学合成が行われている可能性が堆積物中の微生物遺伝子解析などから示唆されている。本研究では、「光合成に依存していると考えられていた深海生態系に、はたして化学合成の貢献はどの程度あるのか」を、さまざまな環境の深海底で炭酸固定量を現場測定することで明らかにした。 平成26年度は、5月と7月に、西部北太平洋の水深5350mの地点において、化学合成一次生産量の定量化を行う現場培養実験を行うとともに、これまでの赤道太平洋、大陸縁辺部などでの実験結果との比較を行った。詳細は現在も解析中であるが、貧栄養の赤道太平洋、冨栄養の西部北太平洋ともに、深海平原では長期間の培養でも無機炭酸からの有機物生産がほとんど検出されなかった。一方で、相模湾、インド洋の漸深海帯では、数日間の培養で有意に検出可能な有機物が無機炭酸から合成されていた。各種化学環境の分析と、現在進行中の微生物相などの解析結果から、深海底での化学合成による有機物合成には、有機物量のほか、底層の酸素濃度、栄養塩濃度と、それに影響されて分布を変える微生物群集組成が大きく影響していることが明らかになりつつある。
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