研究課題/領域番号 |
24540505
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研究機関 | 独立行政法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
木元 克典 独立行政法人海洋研究開発機構, 地球環境変動領域, 技術研究副主幹 (40359162)
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研究分担者 |
佐々木 理 東北大学, 学内共同利用施設等, 准教授 (60222006)
入野 智久 北海道大学, 地球環境科学研究科(研究院), 助教 (70332476)
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キーワード | マイクロフォーカスX線CT / 浮遊性有孔虫 / 炭酸塩溶解 / バイオミネラリゼーション / 海洋酸性化 / 古海洋学 / パレオプロキシー |
研究概要 |
昨年度までの研究では、北西部北太平洋の表層で季節的なpCO2変化に対応した骨格の溶解現象が起こっていることを、セジメントトラップに記録された骨格記録についてマイクロフォーカスX線CTを用いて世界で初めて突き止めた。本年度はこの実績に基づき、天然でみられる骨格密度低下現象が炭酸系をコントロールした室内実験環境下で再現できるか、また再現された骨格密度は天然のものと比較してどのような違いがあるかを検討し、浮遊性有孔虫骨格の溶解プロセスのモデル化を行った。溶解実験には、天然海水にCO2をマイクロバブラーで曝気することで、アルカリ度を変化させること無くpHを低下させ、一定に保った。同時にpH、全炭酸、アルカリ度を分析し実験の初期条件とした。浮遊性有孔虫の殻は北西太平洋より採取された、溶解の影響を受けていない浮遊性有孔虫グロビゲリナ・ブロイデスの骨格を用いた。溶解実験を終えた骨格について、マイクロフォーカスX線CTを用いて骨格の相対密度を定量した。この結果、溶解実験で見られる溶解は、天然のそれと極めて類似した溶解パターンを示し、次のようなパターンがあることを明らかにした。1.浮遊性有孔虫の骨格は内側層と外側層に大きく分けることができ、両者は有機質膜で区別されている。2.溶解は骨格の内側層よりはじまり、最外殻の溶解は高い密度を保ったまま徐々に溶解する。3.内側層は顆粒状の炭酸塩粒子の凝集体からなり隙間の多い構造であるのに対し、外側はいわゆる菱柱構造(自形の炭酸塩結晶)をなしていた。北西太平洋に生息する本種はこの菱柱構造がとくに発達しており、それ以外の種と比較して炭酸塩溶解に対する耐性があるといえる。この厚い外側層はグロビゲリナ・ブロイデスの北太平洋種であるType IIe遺伝子型をもつものに典型的であることから、厚い骨格をもつことで天然の低pHに耐性をもった可能性を示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画は当初の予定どおりに順調に達成されている。とくに実験室内における溶解実験を行うことで、天然試料の溶解過程のモデル化が達成されたことは大きな成果となった。現在この成果について学術雑誌に投稿中である(Iwasaki et al., in review)。さらに、浮遊性有孔虫飼育では世界初となる、通水型pCO2調整飼育水槽で浮遊性有孔虫を飼育し、最終氷期の大気中CO2濃度である200ppmから、IPCCにより2100年迄に予想される大気CO2濃度よりさらに高い1200ppmまでの高pCO2環境でも新しい骨殻(チェンバー)を形成させることにはじめて成功した。高いpCO2で形成した骨格密度は、従来の他生物の結果から、天然のそれと比べて骨格密度が低下している可能性が予想できる。しかしながら一方で、白亜紀後期にみられる浮遊性有孔虫の骨格は、各種古海洋プロキシーやモデル計算により予想されるpCO2濃度(~2000ppm)でも厚く大きく、かつ頑丈な骨格を作ることが古生物的記録より明らかとなっている。現在この骨格をマイクロフォーカスX線CT装置で分析中であるが、本研究結果は、現在の環境変化に対する骨格形成の知見のみならず、太古の地球環境と生物の環境に対しても応えるものとなりうる。このように、本研究は当初の計画に加えてさらなる生物学的知見も蓄積しつつある。来年度はこれに骨格の安定同位体比、さらに化学分析結果を加え、浮遊性有孔虫の殻形成から溶解過程までの一連のプロセスを、生物学的、古生物学的、地球化学的知見から系統立てて理解することに努める。
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今後の研究の推進方策 |
今年度に引き続き、セジメントトラップ中の天然で作られた浮遊性有孔虫の骨格密度測定を行う。また実験室内での飼育実験を並行して行い、pCO2条件を複数段階に変えた環境と骨格密度についての関係を明らかにする。さらに骨格密度の測定が終わった個体について、古海洋プロキシーとして利用される酸素・炭素同位体比および微量金属元素、とくにMg/Ca比、Sr/Ca比について分析を行う。本研究では溶解指標としての可能性が期待されるSr/Caに注目する。Srは有孔虫の骨格中に存在する微量元素で、骨格の部位によらずほぼ均一に分布しており、Sr/Ca比にして1.2~1.4mmol/molの一定の値を示す。しかし炭酸塩溶解が進行するとSrが選択的に除去されてゆき、溶解の進行にあわせて顕著に減少してゆくことが経験的に示されている(木元、未公表データ)。このようにSr/Ca比は溶解指標として有効性が期待され、マイクロフォーカスX線CTによる溶解量の定量と組み合わせることによって、化学トレーサーを用いた溶解指標を確立できる可能性がある。これにはJAMSTECむつ研究所に今年度導入されたエキシマーレーザー型誘導結合プラズマ質量分析計(LA-ICP-MS)を用いる。LA-ICP-MSは殻壁をサブミクロン単位で掘削するピンポイント分析が可能であるため、実験室内でつくられた少量のボリュームの有孔虫骨格(チェンバー)のすべてを損なうこと無く、微量元素のデータを得ることができ、さらには残りの骨格を他の化学分析(例えば酸素同位体比分析)の目的で使用することができる。上記の実験を遂行することで、炭酸塩の溶解量の定量法のさらなる高精度化と、炭酸塩溶解量を化学指標を用いて復元するためのモデルを構築する。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究協力者に旅費として執行予定であったが、他の財源より執行したため未使用額が発生した。 予定に従い、予算を執行する。また平成26年度実施予定の炭酸塩骨格の化学分析のため、レーザーアブレーションICP-MS分析を実施するための各種炭酸塩標準試料の購入に充当する。
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