研究実績の概要 |
平成26年度は、当初の計画通り、丹沢花崗岩のユーシン岩体の熱水流体の形成条件とM-type花崗岩の熱水流体の化学的特徴について検討した。ユーシン岩体の花崗岩の固結推定条件は圧力約1.5~2.1kb、温度約680~700℃と推定された。それらの条件と包有物の均質化温度の情報から、晶洞の自形石英中の多相流体包有物の流体の形成条件は、同じ圧力で約630~570℃と見積もられた。晶洞の多相包有物のPIXE分析から得られた熱水流体の化学的特徴としては、他の新第三紀花崗岩(甲府岩体や対馬岩体)の晶洞の多相包有物に比べてCu・Ti・Mnの濃度が高く、GeとSrの濃度が低かった。また、晶洞中の2相包有物の分析では、他の新第三紀花崗岩の晶洞の2相包有物と比べてCu・Ti・Fe濃度が非常に高く、Ge, Rb, Sr, Pbの濃度が非常に低かった。ZnよりもCu 濃度が高いことなども特徴的であった。これらの高いCu・Ti濃度と低いGe・Sr濃度が、M-type花崗岩の熱水流体の化学的特徴であると考えられる。特に高いCu濃度は、島弧の玄武岩に認められる高Cu濃度と調和的で、流体組成がマントル起源物質の性質を反映している可能性が示唆される。 流体包有物の高いCu濃度は、晶洞中に特徴的な黄銅鉱の存在と調和的で、岩体の周辺に熱水性の銅鉱床を形成するのに十分な濃度と考えられる。しかし、岩体の周辺には大規模な銅鉱床はなく、小規模な熱水性銅・鉄鉱脈が認められるだけである。このことは、ユーシン岩体の熱水の発生量が銅鉱床形成に充分でなかったか、1か所での集中的な銅鉱石の沈積がなかったことと関係しているかもしれない。丹沢岩体は中部~下部地殻に相当するため、本来ならば上部地殻付近に発達していた金属鉱床は削剥で大部分失われてしまった可能性もある。
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