研究課題/領域番号 |
24540508
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
林 謙一郎 筑波大学, 生命環境系, 教授 (40124614)
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キーワード | 酸素同位体 / 熱水鉱床 / シリカシンター |
研究概要 |
熱水鉱床の生成に関与した水の起源は、鉱床がどのような過程を経て形成されたかを知る鍵となる。熱水鉱床で最も普遍的な脈石である石英は、鉱床形成の初期から末期まで出現し、熱水溶液の酸素同位体の変遷を記録している。本研究ではCO2レーザー加熱法によって石英から酸素を抽出し、その同位体比を求めることにより、鉱床が形成される過程で、熱水の性質がどのように変遷したかを議論する。酸素同位体比より熱水の起源の変遷、熱水―岩石反応、熱水の沸騰など鉱床形成時のダイナミックな変化を解読することが目的である。 現世の地熱系である下北半島恐山のシリカシンターの研究を行なった。本地熱地帯では高濃度の金を含む石英の沈殿が知られており、高硫化型金鉱床の現世のアナログであると解釈できる。シンターは総層厚1.5 mで、下位の厚いA層と上位の薄いB層からなり、それぞれシリカ鉱物の薄層互層からなり、色調は黄色から赤褐色へと変化する。特異なストロマトライト様組織を示す部分がA層のほぼ中央に認められる。シンターは鉱物学的にはオパールAおよびオパールCTからなる。CO2レーザー加熱五弗化臭素法により、シリカ鉱物から酸素を抽出し同位体比測定を行なった。A層の酸素同位対比はδ18O= 13-26‰、B層は19-33‰であった。酸素同位体比から推定されるシリカ鉱物の沈殿に関与した熱水の起源は主に天水であり、現在恐山で噴出している熱水にほぼ一致する。B層はA層よりも酸素同位体比が重い方にシフトしており、マグマ水の寄与が増加していると解釈できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度に整備したCO2レーザー加熱五弗化臭素法により珪酸塩鉱物から酸素を抽出し、その同位体比を求めるための真空ラインを使用して、地熱地帯に伴われるシンター中のシリカ鉱物の酸素同位体比を求めた。初年度に現地調査および試料採集を行なった菱刈金鉱床の試料の記載的研究を行ない、とくに祥泉脈について熱水の沸騰を示唆する放射状組織を示す石英など酸素同位体比の測定を実施する対象を絞り、一部はCO2レーザー加熱法による酸素の抽出実験に着手した。さらに世界最大の金鉱床地帯である南アフリカウィットウオータースランド地域の含金礫岩層の記載的研究を行い、石英の酸素同位体比分析の準備を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
菱刈鉱床の含金石英脈の石英の酸素同位体比の分析を行なう。熱水の沸騰を伴う石英縞には、氷長石・粘土鉱物など結晶構造に酸素を含む石英以外の鉱物が随伴するので、あらかじめ石英以外の鉱物を珪フッ化水素酸によって溶解除去し、その後石英の酸素同位対比を求める。鉱床の生成温度を見積もり、同位体分別を仮定し鉱脈の形成に関与した熱水の酸素同位体比の情報を得る。この情報から水の起源や沸騰・熱水混合など鉱床形成時のダイナミックな現象について議論する。南アフリカウィットウオータースランド地域の含金礫岩層の石英の酸素同位体比分析を行なう。
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