熱水鉱床の生成に関与した水の起源は、鉱床がどのような過程を経て形成されたかを知る鍵となる。熱水鉱床で最も普遍的な脈石である石英は、鉱床形成の初期から末期まで出現し、熱水溶液の酸素同位体の変遷を記録している。CO2レーザー加熱五フッ化臭素法により石英から酸素を抽出し、その同位体比を求めることにより鉱床形成過程で生じたダイナミックな過程を議論する。 典型的な浅熱水性鉱脈型金鉱床である鹿児島県菱刈鉱床の祥泉5脈について、鉱石組織の観察と石英の酸素同位体比の分析を行なった。祥泉5脈は3期の裂罅の形成を経て最終的に形成された。石英は鉱化の進行に伴い、細粒(<50μm)から中粒(<100μm)、粗粒(~1 mm)へと粒径を変化させる。石英の酸素同位体比はδ18O値で6.8-20.1 ‰を示し、鉱化の初期では重いδ値(12.5-13.5 ‰)、最末期では軽いδ値(6.8-8.8 ‰)を示し、鉱化の進行に従って低下する。晶洞内部の石英礫は非常に重いδ値(18.7-20.1 ‰)を有し、最末期の熱水溶液の関与が考えられる。鉱脈組織と石英の酸素同位体比は密接に関連し、深部由来の流体の流入に伴う熱水の沸騰で放射状あるいは細粒石英バンドが形成され、酸素同位体比は1-4 ‰の変動が生じる。深部流体の寄与が大きい場合には酸素同位体比は大きく上昇し、直後に多量の鉱石鉱物が沈殿する。鉱石鉱物の沈殿は酸素同位体比の上昇や沸騰を示す組織から僅かに遅れ、この間に細粒石英バンドが認められる。沸騰により性質の変化した流体と天水の混合によって沈殿が生じたことを示唆する。
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