研究課題
基盤研究(C)
ヒスイ輝石岩(ヒスイ)の中からヒスイ輝石と共生する鉱物を特定して、その鉱物の安定関係および共生関係からヒスイの生成環境に制約を付けることが本研究の目的であった。そのために当初の計画段階ではヒスイ輝石岩および関連岩中のSrやBaを含有する鉱物種をターゲットとしていた。しかし、本年度の糸魚川地域のヒスイ調査により、周辺の岩体から含水の硫酸塩鉱物やある特徴を有するシリカ鉱物が新たに発見された(後者に関しては未公表:平成25年秋に発表予定)。特に後者は、糸魚川地域のヒスイ中には石英に代表されるようなシリカ鉱物は存在しない――すなわち、ヒスイ中に低温高圧変成作用の指標となるヒスイ輝石+石英の共生がみられない――ことが本研究の立案・推進の大前提となっていたため、そのシリカ鉱物の存在・関連を検証することが緊急事案として浮上してきた。そのために急遽、国立科学博物館・フォッサマグナミュージアム・益富地学会館・東北大を巻き込んでの合同調査を行うこととなり、平成24年秋に2回の合同調査を行った。平成25年度も継続して調査を行う予定である。そういった新たな展開もあって、当初計画にあった天然試料中のSr・Baに富む鉱物種の特定作業やその合成実験に関しては遅れ気味である。特に後者の合成実験においては、後述のように予期せぬ装置のトラブルなどが生じて、現段階でも試行錯誤の状態が続いている。ただし、糸魚川地域の天然ヒスイ試料からは、いままでに注目していなかったSr含有鉱物を新たに見出しており、現在その詳細を詰めるべく分析試料の準備中である。
3: やや遅れている
前述のように、天然試料の記載-むしろ現地調査-において新たな展開があったために、交付申請書の記載の実施計画からは多少の遅れが生じている。特に実施計画記載の後半の合成実験に関しては、当初の計画では水熱合成装置のより高圧仕様へのグレードアップを予定していた。しかし、耐高圧型の反応容器の導入のためにテスト運転していた際に、加圧のためのハンドポンプが破損し、交換の必要が生じた。ところが、本計画に必要な圧力まで到達させるためのポンプに更新するためには、導入予定であった反応容器以外に、200万円近くの費用が別に必要であることが発覚して、当初計画の水熱合成装置のグレードアップについては頓挫した状態である。そこで急遽、サファイアアンビル式の高圧装置を新たに導入することに計画を変更し、同装置の常温での試運転は終了している。しかし、その高圧装置に試料加熱するためのヒーターを自作する段で、サファイアアンビルを固定している周辺部に熱影響を及ぼさずに試料を局所的に加熱するためのヒーターの作製に試行錯誤中であり、まだ実験システムとしては完成していない状況である。このように研究課題名の副題にある「ストロンチウム・バリウム含有鉱物の合成実験からのアプローチ」という観点からは遅れを生じていることは否めないものの、本来の主題である「ヒスイ生成の謎に迫る」には“新タイプのシリカ鉱物との共存とあるか”といった交付申請書の段階では想定していなかった新たな観点からのアプローチがあり、どのような結果になるのか成果が見られるのかは別にして、全体としては面白い方向に研究が展開し始めたと思っている。
1.天然試料中のSr・Ba含有鉱物種の特定:当初の計画通り、天然のヒスイ試料中のSr・Ba含有鉱物の観察・分析は継続していく。平成24年度は糸魚川地域産の試料で手一杯であったが、平成25年度以降はそれに加えて、大屋地域、若桜地域産、大佐地域産のヒスイ輝石岩および関連岩試料に関しても観察・分析を行っていく。とくに若桜地域産のヒスイ試料に関しては益富地学会館の協力で多量の試料の提供を受けた。大屋地域・大佐地域に関してはサンプル採取のための調査を行いたいと考えている。2.合成実験によるSr・Ba含有鉱物の相関係:平成24年度の導入したサファイアアンビル装置および研究協力をお願いしている京都大学人間・環境学研究科の小木曽研究室に設置してあるピストン・シリンダー型高圧装置を使って、1で特定されたSr含有鉱物・Ba含有鉱物の合成実験を行い、それらの生成条件を検討する。ただし、サファイアアンビル装置では、まだ高温実験をするための整備が完成しておらず、その整備を急ぐ必要がある。また、ピストンシリンダー型装置に関しても、本研究で計画している温度条件では当該装置にとっては低温すぎるため、実験条件に関して試行錯誤を重ねる必要があると思われる。3.糸魚川類縁地域にて発見された特殊なシリカ鉱物の現地調査:他機関との合同調査となり、まだ未公表であるため詳細は記述できないが、本課題研究における一つの目玉となる可能性を秘めており、今後も現地調査を中心として研究を継続していく。その結果で必要が生じれば、そのシリカ鉱物の合成実験等も計画に加えることになると思われる。
本研究経費からでは前述の水熱合成装置のグレードアップ用の加圧ポンプシステムを導入することは無理なので、前年に導入したサファイアアンビル装置や既存のダイヤモンドアンビル装置を用いて高温高圧実験を試行することになる。両装置ともヒーターが組み込まれていないため、それらを自作するための経費が必要となる。また、他研究室のピストン・シリンダー型装置をお借りする手筈にはなっているが、必要な消耗品は当経費より供出するつもりである。また、天然試料および合成試料の観察・分析に用いるFE-SEM、SEM-EDX、WDX、FIB、TEMのための試料準備および使用に伴う費用は当経費より捻出するつもりで、上の合成実験の消耗品費と合わせると、物品費として結構な割合を占めるものと思われる。一方で現地調査や試料採取に関しては前年よりも活発に活動する可能性もあり、成果発表のための学会参加も前年の京都から平成25年はつくばとなるために旅費が発生するなど、交付申請書記載の平成25年度旅費よりも増額の必要があるものと思われる。
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