研究概要 |
昨年度、採取した約200個のマントルかんらん岩捕獲岩から約50試料の薄片を作成した。ほとんどがかんらん石・斜方輝石・スピネル・角閃石から構成されるハルツバージャイトで、単斜輝石を含むものは3試料のみであった。捕獲岩は程度の差はあるものの、細粒の斜方輝石・角閃石・かんらん石・金雲母・スピネルからなる、交代作用組織を示す。最も交代作用の程度の低いハルツバージャイト捕獲岩の角閃石の微量元素組成をレーザ誘導結合プラズマ質量分析計を用いて決定した。捕獲岩中の角閃石は、HREEに対してLREEが枯渇したパターンを示し、いわゆる流体とともに移動しやすいと考えられている元素(Pb・Rb・Ba・U・Sr; e.g. Tatsumi et al., 1986; Bailey & Ragnarsdottir, 1994; Elliot et al., 1997)に富むため、ピナツボマントル捕獲岩は沈み込んだスラブや堆積物由来の流体による交代作用を受けたと考えられる。同様のパターンは、マリアナで採取されたかんらん岩中の角閃石やアメリカ西部Dish Hillや秋田県一ノ目潟で採取された捕獲岩中の角閃石においても観察され、沈み込みに関係した含水流体による交代作用によると推測されている(Johnson et al., 1996; Chen & Zeng, 2007)。同一のピナツボマントル捕獲岩の角閃石は、それぞれ微量元素濃度が異なっているものの、それらの微量元素パターンは類似する。また、よりMg/(Mg+Fe)値とSiO2 wt%が高くTiO2 wt%が低い角閃石は、より微量元素濃度が低い傾向が認められる。より高いTi量を示す角閃石はよりH2O量が低いと考えられており(Tiepolo et al., 2000)、角閃石の微量元素の濃度減少はH2O量と関係していると考える。
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