研究課題/領域番号 |
24540513
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
太田 努 岡山大学, 地球物質科学研究センター, 助手 (80379817)
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キーワード | リチウム / 流体 / カンラン石 / 同位体分別 / 高温高圧実験 / 二次イオン質量分析計 / 沈み込み帯 |
研究概要 |
本研究では,地球表層由来物質とマントル物質との化学的相互作用を理解するために,代表的マントル鉱物であるカンラン石と水流体の間でのリチウム分配・同位体分別のパラメータを実験的に明らかにする. 合成実験にはピストンシリンダー型高圧発生装置を用い,温度圧力条件(900℃,2GPa)を固定して,26~312時間かけてカンラン石を合成した.実験生成物は,FE-SEMによる組織観察,主要および微量元素の定量分析(FE-SEM・SIMS)と,リチウム同位体組成分析(HR-SIMS)を行った. 合成カンラン石のリチウム濃度は,マントルカンラン石の数倍~数10倍程度で,低リチウム濃度カンラン石や粗粒なものは結晶間不均質が顕著になった.リチウム濃度がマントルカンラン石と同程度で同位体組成が均質という理想的なカンラン石は合成できなかったが,実験条件の見直しや再実験のために分析計画が停滞するのを防ぐために,これまでに得られたものの中で,リチウム濃度は高いが,より組成不均質が軽微な合成カンラン石や,地質学的時間スケールの中で化学平衡に達したと考えられる天然試料(北海道幌満カンラン岩中のカンラン石)の分析を開始し,水の定量分析にも着手した. SIMS を用いて鉱物中の微量な水を高精度に定量するには,試料由来の水素バックグラウンドを極力低減する必要がある.エポキシ系樹脂の使用を避け,金属インジウムに埋め込むのが一般的であるが,細粒な合成カンラン石の結晶内部をSEMやSIMSで観察・分析するために,樹脂に包埋せざるを得ない場合がある.この場合は,水の定量分析の前に試料についた樹脂を極力取り除き,含水量が既知のカンラン石標準試料とともに金属インジウムに埋め込むことで,樹脂由来の水素バックグラウンドがあっても,それを検出・補正できるようにした.このような試料準備の改良も行い,カンラン石中の数10 wt.ppm H2O 程度の水を,誤差15%(2σ)程度で定量できるようにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では,リチウム含有量が典型的なマントルカンラン石と同程度で,かつリチウム同位体組成が均質なカンラン石を合成して,元素分配や同位体分別のパラメータを求めることを目指している.これまでの合成実験(加熱時間、~312時間)では,リチウム濃度をマントルカンラン石の数倍程度にまで低くすると,合成したカンラン石の結晶間組成不均質が顕著になった.目指す合成カンラン石の粒径や一回の合成実験にかけられる時間などを考慮すると,理想的な実験生成物を得るためとは言え,さらなる試行錯誤のための実験期間を本研究期間中に割くことは現実的ではない.そこで,これまでに得られた合成カンラン石や天然試料の分析,特に,水の定量分析およびその手法の改良に着手した.
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今後の研究の推進方策 |
補足的なカンラン石の合成実験も考慮するが,これまでに合成したカンラン石や,天然試料(幌満カンラン岩中のカンラン石)の微量元素および水の定量分析を重点的に進め,リチウム同位体組成との関連性を検討する.特に,水の定量では,今年度の研究で確立した手法にしたがってSIMS分析用試料の準備を行い,必要に応じてさらなる改良も検討する. 単純系で合成したカンラン石と多成分系の天然カンラン石の両方から,本研究の当初から目指していた多元素二次元マップを作成し,得られた情報を総合して,微量元素分配とリチウム同位体分別に関する物理化学パラメータの検討を行う.
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