島弧マントルでの流体および珪酸塩メルトによる物質移動について検討するため,マントルウェッジに流入する初生スラブ流体を保存していると思われる変成岩に伴うかんらん岩体と,それら流体が最終的に到達すると考えられるマントルウェッジ上部に由来するかんらん岩捕獲岩について,岩石学的・地球化学的性質の検討をおこなった。具体的には,現地調査により採取した試料を処理し,偏光顕微鏡をもちいた岩石学的記載と,波長分散型EPMAやLA-ICP-MS,XRFをもちいて得られた機器分析データに基づいて解析をおこなった。 マントルウェッジ上部における流体交代作用の検討のため,新たにルソンー台湾弧の火山前線に位置するイラヤ火山のかんらん岩捕獲岩について解析をおこなった。多量のH2O流体包有物が観察されるアバチャ火山の捕獲岩と同様,H2O流体が普遍的に存在していることが分かった。また,遷移元素の運搬に重要な役割を持つH2O流体のNaCl濃度は比較的高く,かんらん岩に記録された交代作用の程度と関連して変化している可能性がある。詳細な検討は今後も継続しておこなう計画である。 変成岩に伴うかんらん岩体に記録された交代作用の解析としては,ロシア,極域ウラル地域のライ・イズ岩体に貫入した岩脈についておこなった。この岩脈はかんらん岩とAlに富むH2O流体との相互反応で形成されたと考えられ,岩相が脈壁から中央部にいくに従って角閃石岩からルビーと金雲母を含む斜長石岩,斜長石岩まで変化し,クロムスピネルが多量に晶出している。この岩脈の構成鉱物には塩素イオンや亜硫酸イオンなどを含むH2O流体が含まれており,これらのイオンを含む流体がマントルウェッジ内で効果的にクロムを運搬していることが示唆された。
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