研究課題/領域番号 |
24540521
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研究機関 | 学習院大学 |
研究代表者 |
糀谷 浩 学習院大学, 理学部, 助教 (60291522)
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キーワード | 格子振動 / 熱容量 / エントロピー / 熱膨張率 / マントル鉱物 / 熱力学 |
研究概要 |
地球の深さ約660 km付近における地震波速度の不連続は、(Mg,Fe)2SiO4リングウッダイトが(Mg,Fe)SiO3ペロブスカイト+(Mg,Fe)Oフェロペリクレースに分解することが主要な原因であると考えられている。その相転移境界はポストスピネル相転移と呼ばれ、Mg2SiO4について多くの高圧高温実験によって研究されてきたが未だ精度良く決定されていない。そこで、熱力学的にこの相境界線を計算することにより、相境界線の位置や勾配の制約を行った。この相境界線の熱力学計算を行う際、Mg2SiO4リングウッダイトおよびMgSiO3ペロブスカイトの高温定圧熱容量は、一気圧高温下においてそれらの結晶構造が崩れてしまうため、実測することは困難である。そこで、当研究による手法である分光学的情報に基づいた格子振動モデル計算により定積熱容量を求め、準調和近似により定圧熱容量を決定した。また、同様にしてMg2SiO4リングウッダイトの熱膨張率は、グリューナイゼンの式 α = γCV/(KT.V)を用いることにより求めた。特に、MgSiO3ペロブスカイトにおいては、100℃を超えて定圧熱容量を実測することができないため、高温側での推定値が高温下でのエントロピー即ち相境界線の勾配に大きく影響を与える。当研究による熱力学計算は、ポストスピネル相境界線の勾配が深さ660 kmでの推定温度である約1600℃において-2 MPa/Kより緩いことを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当該年度では、高圧ラマン分光測定のための出発物質である(Mg0.7,Fe0.3)SiO3斜方輝石の合成を行った。そして、Reガスケット、NaCl圧力媒体を用いて約60~70 GPaまで出発試料を加圧した状態で物質材料研究機構設置のレーザーにより加熱を行った。加熱後の試料について顕微ラマン分光測定を行ったが、試料からのラマンバンドをまだ観測することができていない。
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今後の研究の推進方策 |
ペロブスカイト型(Mg,Fe)SiO3の高圧ラマン分光測定を引き続き行う。それと並行して、MgSiO3のアナログ物質であるゲルマニウム酸塩MgGeO3においてFe成分を固溶させたペロブスカイト固溶体についても高圧ラマン分光測定を試みる。ペロブスカイト型MgGeO3は1気圧下に急冷回収することはできずLiNbO3型結晶構造となる。このため、予め高圧合成したLiNbO3型(Mg,Fe)GeO3固溶体をダイヤモンドアンビル中の高圧下で加熱することによりペロブスカイト型へ相転移させ、そのままラマン分光測定を行う予定である。 また、Mg2SiO4のポストスピネル相平衡境界線について、Mg2SiO4リングウッダイト中の陽イオン無秩序の効果を熱力学計算に組み込み、相平衡境界線のクラペイロン勾配が負であるという制約条件に基づき、Mg2SiO4リングウッダイト中の陽イオン無秩序の程度を見積もる。
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次年度の研究費の使用計画 |
(Mg,Fe)SiO3ペロブスカイト固溶体についての高圧ラマン分光測定を行ったものの、まだラマンバンドの観測までには至っておらず、実験が思うように進めることができていないため。 ペロブスカイト型(Mg,Fe)SiO3での高圧ラマン分光測定と並行して、そのアナログ物質であるペロブスカイト型(Mg,Fe)GeO3についての高圧ラマン分光測定も試みる予定である。このため、試料の高圧合成に必要な消耗品の購入やダイヤモンドアンビルセル高圧発生装置を用いた高圧下でのレーザーによる加熱を物質材料研究機構で行うための旅費に充てる。また、熱力学計算に使用するコンピューターの購入を予定している。それら以外は、研究成果発表用の旅費や論文投稿費に使用する予定である。
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